午前中だけの


 主人は会社。

 子どもは学校。


 掃除と洗濯を終えた私は、

 クッキーと紅茶をトレイへ乗せて

 テレビの電源を入れる。


 年中無休。

 肩書きもない専業主婦の私だけれど、

 午前中だけの特別な顔を持っている。


 それはきっと、家族も知らない

 もうひとりの私。


 リモコンを持ち、

 別の世界へ飛び込むように

 チャンネルを切り替える。


 ここからは、私の時間だ。


「今日はどんな事件なのかしら」


 配役を見ただけで、

 犯人の目星が付いてしまうのは

 残念だけれど、

 それはひとつのアドバンテージとして、

 ありがたく受け取っておくわ。


 聞き慣れたテーマソングと共に、

 二時間のサスペンスドラマが幕を開ける。


「さながら、紅茶刑事こうちゃデカって所ね」


 そうして私は、有能な刑事の顔になる。

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