まばたき


 ベッドへ寄りかかり、

 窓の外を眺めていた君。


 僕に気付くと、

 寂しそうな顔へ

 僅かに明るさが灯った。


「退院したら、温泉なんてどう?

 ここはお風呂が沢山あって、

 料理も美味しいんだって。

 バーラウンジに、カラオケも」


 ガイドブックをめくりながらも

 君を見ることができなくて。


「喉が渇いちゃった。

 飲み物を買ってきてくれる?」


 そっと頷き、席を立つ。

 ここを離れる事に安堵する、

 別の僕がいる。


「ねぇ」


 心の端を掴まれたような気がした。


「無理しなくていいんだよ」


「なにが?」


 凍り付いてしまったように

 振り向くこともできない。


「気付いてる?

 あなた、嘘をつく時

 まばたきの回数が増えるって」


 心はこんなにも、

 君に生きて欲しいと願っているのに。

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