狩猟は男の本能だ


 俺たちは息を潜めてその時を待った。

 掌へ汗が滲む。

 隣の悪友が唾を飲み込む音まで聞こえる。

 

 建物の壁へ体を寄せると、

 影に飲み込まれそうな気分になった。


 狩猟は男の本能だ。

 遙か昔から連綿れんめんと続いてきた行為。

 高校生の俺が、あらがえるわけもない。


「来たぞ」


 緊張を帯び、押し殺した悪友の声。


「今日も相変わらず美しい」

「チャンスは一度きり。この天候ならいける」


 標的はゆっくりと迫り、歩道橋を登った。

 この階段はきっと、天へと続く夢の道。


 その時、一際強い風が吹いた。

 待望の春一番だ。


「きゃっ」


 マドンナの声と共に、そのスカートが捲れ上がった。

 ついに、俺たちの悲願は成就じょうじゅされる。


「スパッツ、だと」


 俺たちの無念を、風があざ笑う。

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