白銀の世界へ、一輪の薔薇を


 彼女のマンションを出ると、

 空には氷の華が舞い、一面の銀世界。

 道理どうりで寒いわけだ。


 新雪へ踏み込む瞬間が好きだ。

 けがれのない神聖な場所へ、

 一番に足跡を残す快感。


 それは、君と初めて

 体を重ねた瞬間に似ている。


 薄氷はくひょうの上を歩くような辿々たどたどしさで求め合い、

 痛みに耐える君の中へ押し入った。


 愛する人へ一番に繋がったという喜悦きえつは、

 僕の心へ強い独占欲を植え付けた。


「それなのに……」


 君は僕を裏切った。

 僕しか触れる事が許されないその体を

 知らない男へ差し出した。


 手にしたナイフの刃先から、

 こぼれる一滴ひとしずくの鮮血。


 それはまるで、

 白銀の世界へ添えられた一輪の薔薇。


「君は永遠に僕だけのもの」


 僕と君だけを残して、

 全て凍り付いてしまえばいい。

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