今宵はそんな悦楽に


酒を酌み交わすのは、

二十歳はたちを迎えた我が子。


長年思い描いた

待望の瞬間だ。


二十年もあるのなら、

酒ならしっかり熟成される。

けれど、おまえはまだまだ半人前。


繋いでいた手を離し、

いつしかおまえは

独りで歩き始めたね。


積み重ねる時間に反して、

交わす言葉は減ってゆく。


寂しい気持ちはあるけれど、

それが成長だとも知っている。


私の背中を

見せていたはずが、

気付けば、おまえの背を

見守る側になっていた。


ここから先は、

自分で生き方を決めるんだ。


そんなおまえの生き方を

好きだと言ってくれる人に

いつかきっと巡り会う。


そうして次の楽しみは、

孫と酒を交わすこと。


長生きするのも悪くない。


今宵はそんな悦楽に、

溺れてみるのもいいもんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る