触れてはいけない人


「ハロウィンが近いから、

 羽目を外して狼になっちゃった、だって。

 なんなのあいつ。馬鹿なんじゃないの」


 親友の彼女は、瞳へ涙を浮かべた。


 これで何度目の浮気か知れない。

 でも、あいつはこの子が本命で、

 他は遊びだと知っている。


 奴が何かやらかす度に、

 僕はこうして

 彼女の愚痴に付き合わされるんだ。


 怒りと悲しみに震える、か細い背中。

 手を伸ばせば届く距離にいるのに、

 いつも果てしないほど遠くに見えて。


 触れてはいけない人。


 全てのバランスが壊れることを恐れ、

 僕はひとり動けずにいる。


 身も、心も、仮装できたらいいのに。

 魔除けの面と焚き火を使って、

 奴を遠ざけてしまえばいい。


 そんな願いが叶うなら、

 あなたへ触れることができるのに。

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