九月の物語

月の裏側


“会えない夜は月を見上げて。

私も同じ月を見ているから”


 はにかんで微笑む、ロマンチックな彼女。

 月光のような柔らかさが胸を締め付けた。


 キャリアウーマンの彼女は多忙だ。

 一緒にいる時もスマホを手放せない。

 それでも月に一度は顔を合わせられるのだから、

 遠距離恋愛と比べれば恵まれている。


 彼女と付き合い、

 僕の世界は劇的に変わった。


 派手な服や装飾品。

 知らない場所。

 知らないお店。

 知らない食べ物。


 彼女に見合う男になりたい。

 そんな一心で、

 自分磨きを続けていたある日。


“おまえ、彼女と別れたの?

この間、男とホテルから出て来た所を見たぜ”


 僕が見ていたのは表側。


 裏側に住む彼女の口端が、

 三日月のように釣り上がる様が過ぎった。

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