たったひとりに贈る物語

パスモ


スクールバッグから、それを颯爽と取り出す。

軽快な電子音が鳴り、カードが読み込まれる。


近未来的でスタイリッシュ。

これを一枚持つだけで、大人になったよう。


なぜか得意になって、歩幅が大きくなってしまう。

結い上げた髪を揺らし、

意気揚々と、バッグを肩へ担ぐ。


私だって一人前。


そう主張したくて、

ありのままの私をさらけ出すように、

カードを裸のまま携帯している。


可愛いケースも憧れるけれど、

覆い隠してしまうのは勿体なくて。


私はここにいる。


聞こえたのは微かな電子音だけれど、

歩んだ記録は確かに刻まれている。


それを一歩一歩と積み重ねながら、

大人になってゆくのだ。


そうして今日も、

このカードと共に学校へ向かう。


改札口の向こうでは、

親友たちが笑顔で手招きをしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る