「んで、なんかあったのか?」


 派手な登場シーンも終わって満足したであろう朱堂に、俺はもう一度問いただす事にした。


「理由がなきゃ来ちゃいけないのか?」


 うわ、素で返してきた。


「いや、まぁそう言うと突き放した感じだけど……暴れて散らかす奴が増えるのは正直困るというか……一応こっちは真面目に活動してるからさ」

「フッ、まるでこちらがそうでないとでも言いたげだな」


 フッ、その通りだ藍原。

 ぶっちゃけ俺達も真面目に活動してるかと聞かれたら、何人かダウトだがな。


「……まあいい。では本題に入ろう」


 ああそうしてくれ。んでさっさと終わって帰ってくれ。

 と、あっという間に疲労が溜まっていくのを感じていた俺の視界の隅に、てくてくと無表情で歩く小さな女の子……山吹の姿が。


「黄瀬……菓子」

「ぎゃあっ! く、来るなぁっ!!」


 彼女は両手にお菓子が入っているらしい包みを抱えて、黄瀬にじりじり迫っていく。


「説明しましょう。黄瀬さんはその恐ろしい外見ゆえにヒーロー同好会に入る前は友達がいませんでした」


 そんな事イキイキと説明するな緑川。


「そしてもともと人付き合いが不得手な黄瀬さんの人見知りは僕達と出会ってある程度改善されたかに思われましたが、それはこの男子校内でのこと。女子に対しては触れるどころか目を合わせて話す事も出来ない、とんでもシャイボーイなのです!」


 向こうで黄瀬が涙目なのはそんな事を声高に説明されたからなのか山吹に追い回されているからなのか。

 いい加減可哀相になってきた所で、桃井が山吹を引き止めた。


「ダメよ山吹さん、いきなりそんなに追い回しちゃ」

「…………そうだった……」


 山吹の攻撃(たぶん本人は攻撃のつもりはないのだろうが)が止み、黄瀬はホッと胸を撫で下ろす。

 それにしても女の子が二人もいると華やかだなぁ……


「あの、それでわたし達が来た理由なんですけど……」


 ああそうだった。なかなか先に進まないな、話が。

 桃井はちらりと黄瀬を見やると申し訳なさそうな顔をして、


「……黄瀬さんは、少し外していて貰えますか?」

「え……?」


 ぽかんとする黄瀬をよそに、メンバーを集め出した。


「お、俺に聞かれちゃマズい話なのか……?」

「は、はい……ごめんなさい」


 たぶん桃井がこれからしようとしている話と黄瀬の想像は恐ろしくかけ離れた内容なんだろう。

 日頃、緑川や桜庭に苛め(本人達は愛情だと言っているが)られまくっている黄瀬にとっては、名指しで会話から外されるのはそういう事にしか繋がらないらしい。


「大丈夫ですよ黄瀬さん、僕も黄瀬さんと一緒にいますから」

「そうすると話聞こえないんじゃないの?」


 若草のもっともな意見に緑川はキラリと眼鏡を光らせる。


「なぁに……僕に聞こえない内緒話はありませんよ★」


 さては緑川イヤーは地獄耳か。

 人間離れした発言だがコイツが言うと妙に納得してしまう。


「そういう訳ですから黄瀬さん、一人じゃないから淋しくありませんよー♪」

「お、俺は別に淋しくなんかっ……やめろ、押すなぁぁ!!」


 黄瀬は緑川に押されて強制退場。

 ばかでかい声のリーダー二人もいるため、姿が見えなくなるまで離された。

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