産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 10 穴屋のたそがれ

石渡正佳

ファイル10 穴屋のたそがれ

三回転ジャンプ

 不法投棄問題はなぜ鎮静化したのか。産廃Gメンの活躍によってと言いたいところだが、英雄が居てもいなくても歴史の大局は変わらない。誰も本音では不法投棄はなくせないと思っていたとき、伊刈だけが不法投棄をなくせるという手ごたえを感じつつ確信的行動を起こした。そして全国最悪の多発地区の不法投棄をほんとうになくしてしまった。それまでできないとされてきたことでも、誰かがやってしまえばできて当然になる。フィギュアスケートの三回転ジャンプにたとえればわかりやすい。誰かが最初に三回転ジャンプを飛ぶまでは誰も飛べると思わない。誰かが飛んでしまった後では飛べることが常識になり、今度は四回転ジャンプが奇跡になる。だからといって最初に三回転ジャンプを飛んだことが偉業であることは変わらない。エジソンが電球を発明しなくても誰かが発明しただろうし、アインシュタインが相対性理論を唱えなくても誰かが唱えただろう。だからといってエジソンやアインシュタインの偉業が色あせることはない。最初の一人には前例がない。それは前例にならえばいい二人目とはまったく次元が違う仕事だ。ナンバーワンにだけ与えられる栄誉がある。ナンバーツーではダメなのだ。

 伊刈が不法投棄をなくしてしまった後では誰も不法投棄をなくせないと言えなくなった。その手法は全国に広がり、不法投棄をなくすことは奇跡ではなく常識になった。オセロの盤面が一手で反転されるように、伊刈たちの活動を起点として全国の不法投棄の状況が連鎖的に逆転していったのである。

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