第59話 心の傷

 「……僕には宝を見つける能力はないんです。僕は宝のないところで勝手に吠えて勝手に掘るだけなんです。なんの取柄もないんです。だって兄は宝を見つけられるから穴を掘らなくてもいいんです。現に花咲かじいさんのところで兄が吠えた場所で大判小判がでたんですよ。かたや僕は見つけられないから多くの穴を掘るんです。その中でときどき偶然、宝が発見されるだけなんです」


 「シロさん。あなたはなにをいってるんですか? 花咲かじいさんにとっての宝は大判小判ではなく双子の犬・・・・だったんですよ?」


「そ、そんな……う、うそだ」


優秀な兄を持った劣等感がそうさせたのだろう。


「本当です。これは鴎からの情報ですがアリバイ確認時に花咲かじいさんはたしかに犬のシロ・・・・と一緒にいた”といっていたそうです」


 「えっ、僕がシロだとわかってたんだ……」


 「当たり前じゃないですか。家族同然のあなたを間違えるはずはない。シロさんあなたの利き足はうしろ足ですね? 本当のポチさんの利き足は前足です」


 「知ってたんだ。花咲かじいさん」


 「それぞれの効き足くらい双子でもわかるんですよ。大事な飼い犬なのだから。それと僕はシロさんが犬の習性で穴を掘っていると思っていたのですが……どう考えてもおかしいんです」


 「な、なにがですか?」


 「穴の掘る頻度が度を越えています」


 シロさんは――あっ。と声をだしてから何秒も押し黙った。


 「いまの僕はとても心無い質問をしていると思っています。それでも……」


 シロさんはまだ、沈黙を貫いている。


 「話していただければ、きっと治療・・をはじめることができます」


 シロさんはそこで決意したかのように言葉をきりだした。


 「あ、兄が殺されてから僕は強迫観念で穴を掘らずにいられなくなったんです。掘れそうな地面を前にすると穴を掘らずにはいられない」


 これもすべて『奇々怪々』の影響だ。

 そのトラウマはいまだにシロさんをむしばんでいる。

 僕はこの砂浜の荒れ具合はなにかの隠蔽だと思っていた、けれど違った。

 それぞれの想いが交錯した跡だった。


 赤鬼さんは、桃太郎さんを撲殺してしまいきっと右往左往しただろう。

 最初に辿り着いたジーキーさんも赤鬼さんを助けようと東奔西走しただろう。

 つぎにエイプさんも鬼ヶ島に向かって縦横無尽に海上を突き進んできた。

 さらには身をていして子蟹さんを守った。


 シロさんも仲間を想い凶器の金棒と偽物の赤鬼さんの遺体を隠そうと隠蔽を図った、癒えることのない心の傷がありながらも。


 「僕はかつての事件であなたに似た犯罪被害者を見たことがあります」


 あの猫さんは、それを乗り越えていまは、もうふつうの生活に戻っている。

 病的なまでに毛玉を吐きだすを繰り返していた。

 彼は、完治している。


 「そうですか」


 「すこし時間はかかりますが、その症状はよくなります。腕の良い町医者を知っていますから」


 「本当ですか?」


 「ええ。あとは青鬼と鴎ぼくらが赤鬼さん、ジーキーさんエイプさんシロさん、そしてポチ・・さん。そのほかの民の意志を汲み『安定奉行所』に、『奇々怪々』の壊滅を進言します」


 「お願いします。僕、今回だって適当に穴を掘って困らせる。そんなすこしの抵抗のために鬼ヶ島にきたんです。青鬼さんお願いします。『奇々怪々』を必ず壊滅させてください」


 「はい。約束します」


 「ありがとうざいます。その言葉が僕、いや、みんなの希望です」


 僕はシロさんのその一言のあとに船頭さんがふたりいる、大きいの舟に向けて、どうぞという意味で手を差しだした。

 すでに舟の上にいた赤鬼さんと、エイプさんとジーキーさんは全員同時でうやうやしく僕に頭を下げてきた。


 “コ”の字に開かれた鬼ヶ島の入り口で舟は事件の終わりを待っている。

 さあ、本土に帰ろう。

 こうして沈みゆく夕日と同時に『鬼ヶ島』で起こった『殺人事件』の幕は降ろされた。


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