第55話 広域指定犯罪組織『奇々怪々』

 「僕はたまたまその時間に鬼ヶ島へいくことになっていて……。到着したときにはすでに交換変化を終えたあとでした。本当にその遺体が桃太郎なのかなんども臭いを嗅ぎました。そのときに鼻に血がついたんだと思います。それに鬼ヶ島ここの潮風はカラカラだから早く乾燥してしまった。もっと早くに海水で洗っておけばよかったかな……」


 「なるほど」


 「……無我夢中でできるかぎりの証拠隠滅を図っているときに鴎さんに発見されました」


 ポチさんはそういって舌をだすと荒れた浜辺へと視線を向けた。

 湿っていた舌がまたすぐに乾燥しはじめる。

 この浜辺の海風は本当に乾いている、そういえば船頭さんも舟を漕ぎながら咳をしていたな。


 「それがあれです」


 ポチさんは目で合図しながら桃太郎さんの遺体のほうへと前足をだした。


 「そうでしたか」


 三番目に着いたのはポチさん、と。

 そうメモに書き込んでいると僕は手元に視線を感じた。

 横目で確認するとエイプさんが睨みを利かせていた。

 その威圧いあつは僕にではなく本物の桃太郎さんへ向けられたものだろう。

 僕がエイプさんへと向き直すと、エイプさんはすでに桃太郎さんの遺体へと向きを変えていた。


 「桃太郎ってのはな、ある組織の新組長なんだよ」


 エイプさんは突然驚きの証言をはじめた。

 僕がまったく予想だにしてなかった話だ。

 

 「ある組織?」


 これは初耳だ。

 当然鴎もまだ掴んでいない情報だろう。


 「そうさ。大きな川を使って各地の果実を大量に横流しする果物ブローカー。『奇々怪々ききかいかい』」


 「『奇々怪々』といえば広域指定犯罪組織ですね」


 「そう。その闇ブローカーの老夫婦が育ての親でな。元服げんぷくのさいに新組長に就任したのが桃太郎さ」


 「も、桃太郎さんが!? 突然、ちまたに姿をあらわしたのはそういうことでしたか?」


 「ああ、けど、あいつは大した腕前の剣士じゃないぞ」


 「というのは?」


 「傍若無人の輩を退治したとかって吹聴ふいちょうしてるけど、なんてことはねー瓦版売かわらばんりのあんちゃんを切り捨てただけだからな。もし探せるならやつの使ってた刃先を見て見みな。刃こぼれがひでーから。凄腕剣士ならあんな斬りかたはしねーだろーよ」


 「そうなんですか?」


 ……ん。待てよ、それってもしかして。

 僕が猪さんの刺殺事件を知らべているときに鴎が持ってきた情報じゃ。

 瓦版売りが斬り殺された事件。


 「ちょ、ちょっと待ってください」


 僕は話の流れを遮った。


 「その瓦版売りとは隣町であった殺人事件ですか?」


 「そうだよ。まだ解決されてねーけどな」


 な、なんてことだ。

 あの事件がここに繋がるなんて町に戻ったらすぐ隣町の防人に報告しないと。

 ただ相手は『奇々怪々』……。


 「桃太郎は帯刀者を良いことになんの理由もなくバッサリだ」


 「り、理由もなく……ですか?」


 桃太郎さんとは相当野蛮な人間だったらしい。


 「心当たりがあるとすれば瓦版に組織・・のことが刷られてたくらいだな」


 「そ、そんなことで人を殺めた」


 「桃太郎に常識なんてものはねーんだよ。もっとも桃太郎自身も幼いころにさらわれてきた赤子だったらしいが……」


 「桃太郎さん自身も……」


 いくらその身の上だったとしてもあまりにひどすぎる。


 「そうさ。ブローカーは例の川の決壊大打撃を受けたらしいぜ。まあ俺からみれば自業自得だと思ってるけどな」


 そういうことだったのか。


 「ブローカーはその損失補填のために鬼ヶ島の財宝に目をつけたわけですね?」


 僕がそう推理したときエイプさんは――治安を守る、お前らが頼りないからだろ。そんなことを目で訴えているようだった。

 それほどまでに目に力が込められていた。

 たしかにその通りかもしれない。

 僕らはまだまだ無力だ。

 時代のせいにしてもいけない。

 “猿蟹合戦”の件もあるし。


 「ちなみに猿蟹合戦もブローカーの仕業だってことですか?」


 「ああ。あとで話すっていったことだけど赤鬼の旦那が仲裁に入ってきて助けてもらった」


 「具体的には?」


 「俺が臼に背骨を折られた直後に――」

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