第51話 犯人はあなたです。

 「その件に関しては後回しにしましょう。ですがポチさんあなたすでに誰が赤鬼さんを殺したのか知っているのではないですか?」 


 僕にはまだわからない犯人をあなたは知っている。


 「ど、どうして?」


 ポチさんは百八十度変わった話の流れにさらに慌てふためいた。

 だらりと垂れた舌がそのままの位置で固まる。

 湿しめった舌先が潮風でほんのりと乾きはじめていた。


 「僕がここにきたときポチさんの鼻さきは汚れていました。おそらくですがあれは乾いた血です。あなたはその臭いでなにか・・・に気付いたはずです。それを理由に真実をほうむり去ろうとした。誰かをかばうために。しかしそれが誰だか僕にはわからない」


 「えっ、い、いやなんのことだかな~。し、知らないですね」


 右往左往しながらここ掘れワンワンといわんばかりに穴を掘り進めるポチさん。

 うしろ足が器用に高速回転する。

 ポチさんの後方は見る見るうちに砂の山になっていく

 大事なものは穴を掘って隠す。

 またもや犬の本能が働いたようですね。

 あなたのその鼻はいったい誰のにおいを探り当てたのか?


 ……ん?

 ちょうど僕の視界に桃太郎さん、ジーキーさん、エイプさん、ポチさんと背の高い順でならんでいる。

 ま、待てよ。

 いまの桃太郎さんはおそらく百七十台……ならばマイナス三十。

 とすると百五十の後半から百六十前後だと……プラス四十くらいか。

 もしかして?

 僕は赤鬼さんを殴った凶器の金棒を砂浜にドスンと垂直に立てた。

 そこにしゃがんで右膝をつき片目をつむる。

 僕の突飛な行動にポチさんの動きが止まった。

 桃太郎さんも、ジーキーさんもエイプさんも僕の様子を注視している。


 僕はその態勢のままで金棒を支点して三百六十度回転して周囲のすべてを見回した。

 そうか、そういうことか、やっとわかった。

 あれは速さじゃなかったのかはばだ。

 ということはあの言葉も。

 なるほど犯人はほぼ確定だ。

 それならばあの打撲痕だぼくこんの角度の問題も解決。

 加えていうなら力加減ちからかげんも。


 やはりこの中に犯人が隠れていたのか。

 灯台下暗しとはこのことだ。

 それはここに犯人がいるという意味ではなく赤鬼さんも僕も鬼属・・ということだ。

 最初の推理で犯人だと思っていた人物はやはり犯人だ。

 ただ事件ことはそんなに単純ではないのだけれど。


 「残念ながら桃太郎さんのアリバイだけは判明しませんでした」


 そう、僕がさきほど鴎の報告で悔しがったのは桃太郎さんのアリバイだけ突き止めることができなかったからだ。

 さらにももうひとつ、赤鬼さんが臼さんとエイプさんの仲裁に入った理由も調べる時間はなかった。

 ただ、鴎はポチさんとエイプさんとジーキーさん三匹のアリバイだけはきっちりと集めてきた。

 鴎は機転を利かせ桃太郎さんのアリバイを深追いせずにまず三匹のアリバイを持ってきた。

 それはとても良い判断だった。


 僕と鴎だからできる阿吽の呼吸。

 さあ鴎の報告を、いまここで存分に披露しよう。

 僕はふたたび立あがった。


 「そうなるとジーキーさんは空を飛んでいたということですので桃太郎さんのアリバイもうそになります。ただし、いまは桃太郎さんのアリバイなんてどうでもいいんです。さあみなさんもう終わりです。赤鬼さん殺害の犯人がわかりました」


 「だ、だ、誰だよ? まさかここにいるってのか? 赤鬼・・を撲殺した犯人が?」


 三匹のあるじである桃太郎さんは代表して僕に訊いた。


 「いるといえばいます。いないといえばいません」


 「はっ?」


 「けれど犯人はズバリ桃太郎さん。あなたです」


 僕は逡巡することなく桃太郎さんを指さした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る