第31話 鬼属
「そうですね。桃太郎さんは人間たちにとても人気があるみたいですよ。反対に赤……おに……。すみません」
鴎は語尾を弱めると同時にピタっと助走を止めた。
しまった、という顔をして僕から顔をそむける。
顔といってもいまはもう鳥そのものの顔をしているのだけれど。
体も白い羽毛に覆われていて背中と羽は薄い灰色模様だ。
僕には鴎が顔をしかめた理由がはっきりとわかった、それだけの付き合いということだ。
赤鬼は僕と同じ鬼族だけれど人間たちにはひどく評判が悪い。
鬼とは体格が大きく激情化で理不尽に暴れるというのが世間の共通認識だからだ。
平均身長二メートルで大柄のあやかしは?という問いをだせば鬼が第一選択肢になる。
鬼族を大まかに分類にすると“赤鬼”と“青鬼”の二種類に分けられた。
さらに細かく分けるとツノの数ということにもなるのだけれどそれはまた別のときに。
僕ら青鬼、つまり半妖は外見が人間と同じなので人間から怖れられることはすくない。
さらに青鬼の「青」という名から冷静沈着な鬼だという印象も持たれている。
これは僕にとってもありがたいことだ。
反対に赤鬼は情熱的で頭に血が上りやすいという印象でもあるらしい。
これも「赤」という色が持つ特性なのだろう。
赤鬼はいまでも町を襲撃する、金棒で殴り殺す、子どもをさらった等の噂は絶えない。
紙芝居などの娯楽でもそれが求められているのは周知の事実だ。
華やかさと美しさ、そして強さまでを兼ね備えた桃太郎さんに町中が色めき立っている。
鴎は僕と同種族の赤鬼の悪い噂を口にして謝ったのだった。
「大丈夫。気にしないで。どこか遠い親戚の悪評みたいなものだから」
「すみません。朝の……み、見回りにいってきます」
鴎はモゴっとした口調とは反対に俊敏に助走をとった。
そして数歩後退して、タン、タン、タン、タンとリズムよく地を駆ける。
人が歩くのと同じ感覚なのだろう。
颯爽と羽を広げるとほんの数秒でもう木々の高さを越えていた。
そこからは僕が目視してもどれほど高度が上がったのかわからない。
もう、悠然と空を旋回している。
少々気まずくなったのか今日の飛びだしはとても早い。
僕はそんなことは気にしていないのだけれど……。
朝の勤務はまず、鴎の地域の見回りからはじまる。
鴎という防人が飛翔しているだけで犯罪の抑止になるからだ。
僕は鴎のそんな気持ちを汲みとって笑顔で送りだした。
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