第30話 噂

 鴎の持つ特種能力で解決した事件は数知れない。

 それは瞬間記憶能力もそうだ。

 【アタリなきからくり箱】の詐欺事件にもおおいに貢献してくれた。

 些細ささいな情報だとしても管轄地域のおおよその出来事は頭に入れておく必要がある。

 もっともどの場面を記憶すればいいのかは鴎の事件発生予測の嗅覚にかかっているのだけれど。

 鴎は小さく飛翔前の助走をとった。


 「青鬼さん。最近ちまたで噂の桃太郎さんって知ってますか?」


 「ええ。容姿端麗の天才美剣士ですよね。知ってますよ」

 

 桃太郎さんとは最近よく耳にする人間の名前だ。


 「青鬼さんと同じくらいの色男いろおとこだって民が噂してましたよ。

知ってましたか?」


 「えっ、いや、それは初耳です」


 褒められて悪い気はしないけれど照れくさくもある。


 「本当ですか? 本当は知っていて黙ってるんじゃありませんか?」


 「いえ、本当に知らないですよ」


 僕は鴎に気圧けおされた。

 ときどき鴎にしてやられる。


 「まあ、いいですけど。また傍若無人なやからを退治したみたいですよ」


 「へ~僕らの出番も減りますね」


 帯刀を許可された者はその個人の一存で他者を斬ることが認められている。

 御上は文武両道の健全な精神の者に帯刀を許しているからだ。

 それでも許可を得た者は数少ない。

 帯刀を許されるとは、それほどの狭き門なのだ。

 最後は退治に至った経緯をあとで御上に報告する必要がある。

 これをせずに帯刀許可を剥奪された者も多い。


 ただ家柄やコネ、金銭授受などでも帯刀が許されてしまう事実もあった。

 帯刀に値しない者がなんらかの理由で刀を所持することも中にはあるのだ。

 時代の過渡期ゆえに制度の欠点も多い。

 それでも僕はこの乱世の先に泰平の世があると信じている。

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