アイスクリーム・シンドローム(スキマスイッチ)

「友だち」って聞こえのいい言葉だよなぁ。

 オレと美佳はずっとそういう関係だ。


 小学校の頃、たまたまずっと同じクラスだった。そんなヤツは他にもいたけど、美佳はなんつーか、女子のくせにオレたち男にも当たり前に話しかけてくるから。

 んで、中学に入ってからも同じバスケ部で、腐れ縁は切れることもなく、バスケ部の強いところに進学したら、あいつも同じ高校だった。


 おかげでつき合い長いからって距離感はいいんだけど、なんだかんだ男の事、質問してくるから相談に乗るんだけどさ……

 美佳、すごいモテるんだ。いや、モテるモテないの問題じゃなくて、魅力的に育ったと解釈してほしい。

 オレなんか、相談なら聞けるけど、とても手の届かない存在になっちゃったんだよ。


 正直、彼氏のことなんか「あなたの気持ちがわからない」って言っちゃえば、ちょっとかわいいと思ったりすることあるじゃん? もちろん重いと思われることもあるけどさ。かわいい女の子がかわいく言えば、そいつだって甘えられた方がうれしいんじゃねぇの、と思うんだよ。


 なんでも話せても、彼氏の愚痴ばっかじゃなー。オレだって、やってらんねぇ。本音を言えばもう、そういうのキツい。


 この前もさ、「また聞いてもらってもいい?」なんてかわいいこと言うから、 ふたりっきりで公園のブランコに乗ってみた。で、手持ち花火やったんだけど……そんな下心見え見えなのか、「やー、あんたとこんなとこで花火したりするとか、思ったことなかったわ」とか言って笑ってやがるし。おいおい、別れたから泣いてんじゃねぇのかよって思うじゃん?

 つーか。

 公園でふたりきりで花火とか、泣かせるじゃん、ふつう。


 今年の夏は特に暑い。


 とりま、目の前のコンビニに入る。むかし、みんなで回したマンガ、続きがあって、あいつなら笑いのツボ同じだから一緒に笑えるよな、と思って買ったんだ。

 アイスを買ってコンビニ前のガードレールにもたれて食べる。すぐ来るはずのあいつの分も、買った。


 向こうから走ってくるあいつの、白いTシャツと、長く揺れるポニーテール。見間違うわけが無い。ずっと、この気持ちに気がつかなかったくらいずっと、あいつを見てたから。

「ごめーん! 暑かったでしょ! あー、アイス食べてる、ズルい! そう言えばそのマンガも珍しくなーい?」

「よく見ろよ、お前の分……」

 背中をバシッと叩かれる。女とは言えバスケ部の部長なんだから、叩かれるとまじ、入るんだけど……。

「溶けるに決まってるじゃーん、バカだなぁ。新しいの買ってくるから、後でマンガ貸してよ」


 一度でいいから、真剣な顔をして「好きだ」って言ったら、真剣に受け止めてくれるかな? きっと笑ってごまかされるんだろうな。


 オレたちの関係はこのままフラット。

 平行線のまま、地平線まで続いてるんだ。


「お待たせ、何見てたの?」

「飛行機雲」

「え? どこ?」

 指をさして教えてあげる。

「すごいね、飛行機雲が空を真っ直ぐに切り取ってるみたい」


 そんなことでしあわせを感じるなんてちっちゃいことだけど、しあわせは減るもんじゃないから。


 いつか、オレから言うよ。

「今すぐ、会いたい」

って、真面目な声で。

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