全ては確執の果てに
最終章-1 兄と弟
榊はポツポツと語りだした。
「知っての通り、榊家は拝み屋をしている。今は世間から認知され
「はい……」
「それでも、様々な需要があるから何代も続いている。例えば、引っ越した家に何かが出るとか、いわゆる狐憑きのお祓いとかな。
それで、榊家は基本は世襲制だが、長子に限らず優秀な者が継いだり、時には実子が居ても見込が無いと判断されれば傍系から養子をもらうこともあった」
初めて聞く榊家の内情。榊は遠い目をしながら語る顔には切なさが漂っている。
「いつか言ったが、俺達兄妹は幼い頃から修行させられた。兄も妹もな」
「はい」
「結構しんどいものだったな……」
「今日は式神を扱う修行だ。この紙に呪いをかけ、何か実体化してみろ。そうだな、比較しやすいように同じ物……鷹にしてみろ」
ここは榊家の離れにある道場。ここで術力を鍛えたり、武道の修行をする。
学校から帰って、二人が揃うと修行が始まる。それが榊家のスケジュールであった。
「あーあ、かったるいな。早くゲームやりたい」
雄貴がぼやくと兄の雄太がたしなめる。
「そんなこと言うな。これもお父さん達の助けになるんだ。真面目にやれ」
「いけないんだー。ゆうきにいちゃんサボろうとしてるー。パパにいいつけてやろー」
妹の悠希がちょこまかと道場を走り回る。
「って、悠希がなんでここにいるんだよ。まだ三つだから修行できないだろ?」
雄貴が不思議そうに兄に尋ねると、兄も困ったように返した。
「お父さんの意向だよ。修行の雰囲気を味わわせるのと、最近お父さんの真似事しているから、もしかしたら素質があるのかもって。だからここに入れたってことさ」
「って、こんなにちょこまかと動かれたら、集中できないだろ」
「悠希、兄ちゃん達は大事なことをしているからこの紙でお絵描きしていなさい」
「うん!」
雄太が予備の紙と筆を渡すと悠希は大きく頷いて何かを書き始めた。
「さて、これで集中できるな。父さんも甘いよな」
最後のぼやきは父親に気づかれないようにして、二人は父親が見守る中、和紙に文言を書き連ねて札を作成する。
「よし、念じてみろ」
二人が念じると、それぞれ鷹に変化した。
「ふむ、雄太の式神は悪くないが、少し拙いな。これでは途中で消えてしまう。もう少し集中して、呪いをかけるべきだな。雄貴のは問題ない」
「はい……」
雄太は一生懸命書き、念じたのに不備を突かれ、沈んだ声で返事する。そんな様子を見ていた悠希が無邪気に駄々をこね始めた。
「とりさんだ!ゆきもとりさんだすー!」
「ははは、悠希はまだ漢字は無理だからな。よし、私が書いた札に好きな鳥を思い浮かべなさい」
「父さん、悠希はまだそんなことができないです!」
「雰囲気だけだ。後ろで私が念じて出してやる」
「父さんは悠希に対して甘過ぎます!」
(また始まった)
二人のやり取りを雄貴は醒めた目で見ていた。そんな口喧嘩するならば、さっさと今日の分を終えたい。いつでも生真面目な兄は父親と口論となる。今日は妹に甘い父親が許せないようだ。
(僕はさっさと終えて、ゲームしたいし、宿題なりを片付けたいのだけどな)
「ピヨピヨ」
不意にこの場に似つかわしくない鳴き声がする。
「ひよこ?」
雄貴が辺りを見渡し始めると、口論をしていた二人も止めて周りを見渡す。
「ひよこさーん」
悠希が笑いながらひよこを手に乗せていた。
「もしかして、悠希、ひよこを出したのか?」
雄貴が尋ねると悠希は満面の笑みで頷いた。
「うん、おにいちゃんたちのとりさんこわい。ひよこがいいからだした」
「こりゃ、驚いたな。悠希は力がかなり高いな。将来が楽しみだな」
父親が驚きを隠せずに言う。
「そう言えば、雄貴もそうだったな。お前が年少の頃、私の札を勝手に出して式神を沢山作り出していたな」
「お父さん、もうその話は止めてください」
あの時は単に犬が飼いたかっただけだ、式神がどんなものか知らずにイメージしていたら犬が沢山出てきてしまった。もちろん祖父母や両親にこっぴどく叱られたが、それからはやたらとちやほやされ始めた。兄を差し置いているのは子供心にもわかったので、ばつが悪い。
「いやあ、榊家も安泰かな」
父親が満足げに話す傍らで、悔しそうな顔をする兄を見るのは居たたまれなかった。
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