第4章-14 再びの対決
「来たっ!」
火柱はブースのテント部分を突き抜け、激しく燃え上がっている。イフリートもブースの上の方に浮いている。まるで次の狙いを品定めしているかのようだ。
予め増員していた係員と警備員により、客の避難誘導は進むが、人々はパニック状態に陥り、出口へ殺到していた。入れ替わるように消防士が現場へ入っていく。周辺の延焼は彼らに任せればいいだろう。
『桃瀬君、すぐに避難しろ!』
榊が指示をするが、桃瀬は拒否をした。
「いえ、あれは何故か私を狙ってきます。私が逃げると逃げた先のお客に危害が及びます! 大丈夫です、ポジショニングに気をつけて動きます! 私、これでもスポーツしてるからすばしっこいです」
『無茶だ! 桃瀬君! 直ぐに行く!』
「主任こそ、こちらへ来ると危険です。竹乃さん、付近の客の避難が終わりました、お願いしますっ!」
『あい、任せろ』
ドラゴ君の着ぐるみを着たままの竹乃がイフリートに視点を合わせ、集中する。あちこちのブースのドリンクコーナーに浸けてある氷水が巻き上がり、水の帯と化してイフリートへ襲いかかり、巻き付く。
それはイフリートの動きを縛るが、高熱により蒸発し、水蒸気が上がる。
『むぅ、思ったより高熱で蒸発していくな。会場の水の量からして縛りつけるのはせいぜい十分が限界じゃな。悠希、柏木、頼むぞ!』
『任せて! 柏木君、二階席へ向かうわ!』
柏木が包みをほどき、中から洋弓や道具を取り出し、準備を進める。
『こちらもスタンバイOKです!悠希さん、いつでも
程なくして悠希が矢筒を持って柏木の元へやってきた。
「はい、
「洋弓でも一か月半でモノにするのは相当骨が折れましたよ。突貫にも程があります」
苦笑いしつつ、柏木は悠希から矢筒を受け取り、矢をセットする。
弦をひき、イフリートに照準を当てる。竹乃が水の力で押さえているとはいえ、かなり暴れているから照準を合わせるのが難しい。
「距離は四十メートルというところか……」
桃瀬がある意味囮になってくれているおかげで、角度はベストポジションでの攻撃となる。
「はっ!」
一本目の矢はイフリートの頭の上をかすめ、外れてしまった。外れた矢は周辺の炎に吸い込まれ、その瞬間、辺りの炎が消失した。
「すごい、さすが榊家特製の矢だ」
「感心している場合ではないわ、柏木君。残りは四本、今日逃げられると人々がまたイフリートの脅威に怯えるわ。そしてあなたの決着も付けられない」
「はい、わかっています。十五年越しの因縁の決着を今日付けます!」
柏木は二本目の矢を準備しつつ、悠希に返事をする。桃瀬が体を張っている、竹乃も不得意な場所で力を使ってサポートしてくれている。主任だって自分に役目を譲ってくれた。皆の想いを無駄にするわけにはいかない。
とは言え、イフリートの力は強大だ。竹乃の水の鎖は通常の精霊ならば動けなくなるはずなのだが、ふりほどこうともがいている。しかも、高熱で蒸発を続けているため、視界が悪い。
そのせいか、二本目と三本目も外してしまった。
「畜生、湯気でうまく照準が定まらない。焦るな、俺!」
あの笑顔を見られなくした元凶が目の前にいる。あいつともっと居たかった。あいつに言いたいことも沢山あった。普通に幸せにいたかった、それを断ち切る権利は誰にも無い。それをあいつが断ち切ってしまったんだ。
「……湯気の流れを見極めるんだ!」
四本目の矢が右肩に当たった。ものすごい量の蒸気が漂い、咆哮が上がる。
『ヴォォォ!!』
「やったか?!」
「!! いえ、まだだわ!」
イフリートは右肩を中心に欠損し、苦しみもがいているが、完全な消滅には至っていない。悠希が呆然とする。
「なんてこと、ここまで強大なんて……! 柏木君、ラストの一本で止めを刺すのよ!」
「言われなくてもわかっていますって」
最後の矢を取り出し、慎重に狙いを定める。矢は少し溶けかかっているから照準で迷っている時間は無い。
「……理桜、力を貸してくれ! 南無三!」
最後の矢が真っ直ぐに飛んで行った。その時間はとても長く感じる。こういう時にスローモーションのように見えるというのは本当だ。
(当たれ、当たってくれ!)
矢はイフリートの眉間に当たった。
『グゥオオオォォ! ヴォォォ! ガァァァ!!』
この世の生き物とは思えない咆哮を上げ、イフリートは暴れながらも大量の水蒸気を上げて消失していく。
「やったわ……!」
その様子を固唾を飲んで見守っていた悠希が小さくガッツポーズを作る。
『よし! よくやった柏木!』
『柏木さん。見事です!』
『ふむ、やりおったな。水も無くなってきていたから危うかったぞ』
「……やった、やっと仇が打てた。……理桜……」
柏木はそのままへたり込み、泣き崩れた。
『柏木、泣くのは後だ。あとは消防局に消火を任せよう。急いでそれぞれの近くの避難口から避難しろ!』
『『わかりました! 主任!』』
五人は急いで避難することにした。
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