第3章ー14 一件落着?
『ふむ、動画は見せてもらったぞ。とりあえずは伊奈は詫びの気持ちはあったのだな』
あれから編集した動画をおたけ様こと竹乃に送って事情を説明したところ、精霊部門宛に竹乃から電話があったのは三日後のことだ。
「はい、供物を盗んでいた外来種精霊は悪質なのもあって、抹殺しました。動画を見ればおわかりいただけると思いますが」
桃瀬はスピーカーホンに切り替え、そばにいる二人にも聞こえるようにする。
『まあ、そのようだな』
「あの、伊奈さんの田んぼの件は検討していただけたのでしょうか?」
『……』
恐る恐る桃瀬は尋ねる。ちょっとの沈黙が長く感じる。
『ふう……。仕方ないの、ミナノのことでもそなたは泣いてくれたしな。そのノームの説得にあたろう』
その言葉を聞き、桃瀬は受話器を持ったまま立ち上がり、お辞儀をした。
「あ、ありがとうございますっ! 伊奈さんも喜びますっ!」
その後、グノーは竹乃の説得にあっさりと応じて田んぼから退去し、本国へ送還されるまでの間、耕作放棄地に住居を移すことで決着が着いた。
「この田んぼの守り神様の迷惑になっていたとは申し訳ない」とグノーは何度も頭を下げていたという。
「『陶芸ができないのは物足りないが、竜神様の助けになるように、荒れ地を畑に甦らせるのが新たな役目だ』とか言ってせっせと荒れ地を手入れしているそうだ」
榊から報告を受けた二人は安堵の表情を浮かべた。
「本当に精霊に帰化制度があったら一発で許可が降りるな……」
「とにかく、伊奈さんも良かったですね」
「ああ、これで市役所の依頼も解決したな」
「そういえば、主任。竹乃さんの正体を田沼課長には教えたのでしょうか?」
ずっと気になっていた疑問を桃瀬は口にする。
「いや、仕事がしづらくなるからと口止めを頼まれた。表向きは竹乃さんが竜神とコンタクトが取れる人ということにして報告しておいた」
「まあ、部下が神様なんて、上司の御曹司だったというよりもやりづらいでしょうからね」
「俺、上司や同僚だったらお願い事するな。宝くじ当たりますように! とかさ」
柏木は相変わらず調子のいいことを言ってのける。
「柏木、お前、神様が万能と思ってないか? 日本の八百万の神々は役割が分散しているぞ。いわば古代のワークシェアリングだからな」
「えー、じゃあ、その神様の特権の恩恵にあずかる」
「お前なあ。雷神一つとっても空を暗くするだけの神とか光らせるだけの神とか細かく分かれているのだぞ。どうするんだ?」
その時、電話が鳴ったため、桃瀬が出た。
「はい、環境省精霊部門です。あ、竹乃さん。お世話になります。ちょうど今、竹乃さんやグノーさん達のことを話していたのですよ」
『うむ、そうか。グノーは物分かりが良かった。あやつは外来種精霊ではあるが、日本の農業や文化を愛してくれているのじゃな。耕作放棄地の解決法の一つになるのかもしれぬ。外来種精霊でも条件を付ければ共存できるのかもしれぬな』
「それはこれからの議論と課題ですね」
『うむ。それから、榊に代わってくれんかの?』
「?はい。主任、竹乃さんが代わって欲しいそうです。」
「なんだろう?」
訝りながらも榊が受話器を取った。
「はい、榊です。」
『おう、榊か。あれから榊の家のことを調べた。いろいろ難儀じゃの、お前さんも』
「……どうやって調べたのですか」
『それは神様のネットワークとだけ言っておく。わしらが可視化されるこのような事態になったのはもしかしたら、お前さんの兄が一因かもしれぬな』
「……。そういう話であれば切りますよ」
『ああ、済まない。そういう話をするつもりじゃなかった。
動画が気になって桃瀬から編集前の生動画をもらって見たが、お前さんかなり私情が入ってるの。公私混同もほどほどにな』
「何のことですか?」
『まあ、あやつは可愛いし、人のために泣ける優しさもあるし、精霊に狙われやすいのもわかる。ちゃんと守ってやれよ』
「だ、だからっ、何の話ですかっ!」
『まあ、人間でも身近に若いライバルもいるみたいで苦戦するかもしれんが、お前はミナノエシの若君とは違って真面目じゃし、好感が持てるからわしは応援してるぞ。じゃあの』
「だ、だから何の話なんですかっ!」
「ったく、あの竜神は何を考えているんだ」
電話を切った後、榊が珍しく動揺しているのを見て桃瀬は不思議に思い、尋ねた。
「どうしたのですか? 榊主任?」
「い、いや、何でもない。桃瀬君、仕事に戻ってくれ」
「榊主任。書類、逆さに持ってますよ。ついでにうめえ棒も逆さに開けてます。おやつタイムにはまだ早くないですか?」
「う、うめえ棒は逆さに開けてもいいだろっ!」
明らかに不自然な受け答えや態度で桃瀬は更に疑問に思ったが、詳しく尋ねて地雷を踏むのもなんだから詮索しないことにした。
(本当に不思議な人だわ、主任って)
~第3章 了~
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