第345話 結構美味しい食事会

 今度は僕の番だ。

 毎度お馴染みの大きなタッパーを出して蓋を開ける。


「僕のはまあ、よくある鶏の手羽先です」

「そうだよ、肉がそろそろ欲しかったんだ」


 先輩は肉に飢えていたらしい。

 確かに煮物の中の鶏肉以外、おせちの中って肉類は少ないからなあ。


 そして亜里砂さんがにやにや笑う。

「思い切り被ったのだ。でも出してしまうのだ」


 何だろう。

 亜里砂さんが出したのは妙に深いタッパー。

 中は茶色い肉の塊だ。


「家は何かがあると父と私とで肉を食いまくるのだ。そんな訳でこれは父が作った中華風焼き豚なのだ」


 やられたなと思う。

 確かに美味しそうだ、これは。

 香りがちょっと違うのは何か香辛料を使っているのだろう。


「あと重かったけれど、父がこれも持っていけと言ったのだ」

 かなり大きいタッパーをどんど出す。


「ポトフ、家から材料を持ってきてさっきまで煮込んだのだ」

 あけるとふわっと湯気が出る。

 中はジャガイモとかソーセージとかキャベツとかが浮いている、まさにポトフだ。


「全然正月と関係ないけれど美味しそうだな、これは」


 確かに。

 何か亜里砂さんの持ち込んだもの、色々とダイナミックだ。

 そんな訳で各自食器やタッパーを皿代わりに食事会を開始。


「まずは撮影して美洋と未亜に送ってやろう」


 先輩がスマホで撮影。

 そして亜里砂さんのでっかい焼き豚にナイフを入れてかなり分厚く切り分ける。


「この肉肉しさがいいよな」


 早速焼き豚をいただいてみると思ったよりさっぱりしている。

 脂分が少ないからだけれど、それでもバサバサしていなくてしっとりしている。

 とってもいいハムを食べている時と同じような感じだ。

 味はちょっと馴染みのない香辛料の香りがする甘辛系でとても美味しい。


「何か亜里砂さんのが圧倒的すぎて正月ムードが吹っ飛びますね。美味しいけれど」


「でも悠の手羽先も美味しいぞ。味も焼き豚とは違うから別のものとして食べられるし。ただ悠が作るものってどうも酒のつまみっぽい感じだよな。この前の塩辛もそうだしさ」


 確かに言われてみるとそうかもしれない。

 あとは当然だがおせちも美味しい。

 本格的なおせちなんて実家でも作らないしさ。

 あとポトフが見かけ以上に美味しかった。

 温かいせいだけじゃ無い。


「何かこのポトフ、美味しいな」

「出汁の生ハムの骨と、あとソーセージが父セレクトの特別製なのだ」


 なるほど。

 美味しい美味しいと食べていると先輩のスマホが鳴る。

 ちらっと見て先輩が笑った。


「未亜から怒りのメッセージが来ているぞ」


 確かにこれ、楽しそうだよなと思う。

 僕もこれを見せつけられたら悔しいだろうし。

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