第305話 いよいよ厳しくなってきました

 御飯を食べて外へ。

 今は午前8時30分。

 でも山間のせいかかなり寒い。


「暑くなったらすぐ脱ぐ機会を作ります。ですから今は寒くないように着ておいて下さい」


 そう言われたので僕はTシャツの上に毛と化繊混紡の襟有りシャツを着て、更にその上に雨具の上を着込む。

 うん、僕はこれくらいでいいかな。

 彩香さんは先生から借り物のフリースまで着込んでいるけれど。


 先輩がザックから何かを出して、水を入れて振っている。


「何をしているんですか?」

「疲れた時の秘密兵器。あとで味あわせてやるよ」


 何かおやつ系だろうか。

 分厚い靴下を履いて、登山靴の紐を足首までしっかり締めて。


「それでは出発の前に、使用前写真を撮るぞ。並んで」

 先輩が小さい三脚にスマホをくっつけて地上に置いて角度を調節し。

 ボタンを押して走って列に加わった。

 パチリと言う音。


「これと下山した時の使用後写真を並べるとしょうもないけれど面白いんだ。よし、ちゃんと撮れている」


 そんな訳で登山開始。

 まずは平坦な遊歩道状態の処を歩いて行く。

 紅葉系の木が真っ赤に紅葉していていい感じだ。


「すごくいい感じだね。空気も澄んでいるし」


「これが20分後、惨憺たる状況になることをこの時の彩香は知る由も無かった」

 先輩が妙なナレーションをつける。


「縁起でも無い事を言わないで下さい」

「ふふふふふ、実は本当なんだな。丹沢名物山林直登の恐ろしさ、すぐにわかるぞ」

 本当だろうか。


 そして先輩の言う通り、ゆるやかな遊歩道状態の道は僅か5分で終了。

 林の中をへばりつくような道に変化した!

 先輩の言った通り、正に直登。

 単なる山林の斜面に無理矢理つけたような傾斜の道。


 何とか2足歩行で歩けるが所々の段差が本気で高い。

 細い丸太で階段状になったりしているところもある。

 その階段の段差が強烈だったりするのだ。


「この丸太、登山のためにあるのでしょうけれど。でもかえって邪魔ですね」

「でもこれが無いと登山道がもっと削れていくんだ。ここの登山道、雨の時に水が流れやすいしさ。その時に登山道の土も水が削ってしまうわけだ。ただ丸太があればある程度土が止まってくれる。

 まあその結果、とんでもない段差が出来たりもするのだけれどさ、こんな感じに」


 先輩はそんな事を話しながら歩いているけれど、正直きつい。

 彩香さんなんか完全に口呼吸ではあはあしている。


「それではここで服装とザックの調整をします。止まってザックを下ろして」

 ちょっと広くなったところで先生がそう宣言。

 確かに大分暑い。

 僕も汗をかき始めている。

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