第301話 とにかく走れ!

 さて、仕上げだ。


「そんな訳で、未亜さんが美洋さんと仲がいいのは、別のお父さんとの契約とかそういうせいじゃない。

 更に言うと僕も彩香さんも亜里砂さんも狐の里の事情なんて全く関係ない。


 それ以外の直接美洋さんを知らない狐系の人は、家の名前の方が有名なのはしょうがないんじゃないかな。僕らはまだ中学生だし、スポーツ選手や芸能人のような有名人という訳ではないしね。


『何をやっても私は竹川家の長女として見られてしまう』についての反論は以上。少なくとも美洋さんは充分魅力的な存在だよ。

 さて、反論あるかな」


 我ながらよく喋ったと思う。

 普段の一月分くらいは喋ったような気が。

 でも問題はこれからだ。

 これで美洋さんが納得してくれるかな。

 そう思ったところで、亜里砂さんがにやりと笑う。


「もしそれでも不安なら。何なら悠が何を思って何を考えているのか、多少の深層思考まで含めて魔法で見せてやってもいいのだ。

 悠が今言っていた台詞全体に嘘は無いのは保証するのだ。でもそれでも不安なら、魔法で確認させてもいいのだ」


 うわ、亜里砂さん、なんという反則技を。

 でも。


「何なら僕はかまわないけれど、どうする」

 もしそこまで信じられないなら別に構わない。

 どうせ亜里砂さんには常日頃全ての思考を見られているし、まあそのついでだ。


「いいえ、その必要はありません。充分です」

 美洋さんの声が、ちょっとかすれた。

 しまった、色々言い過ぎたかな。

 ちょっと後悔。


「悠は後悔する必要は無いのだ。全部ちゃんと通じているのだ」

 亜里砂さん、ここで美洋さんの表層思考読んでそう答えないでくれ。

 ちょっと安心すると共に別の不安をしてしまうわけで。

 どうしようかなと僕が悩む中。

 未亜さんが時計をちらっと見て、そして冷静な口調で口を開く。


「さて。色々名残惜しいのですが、現在の時間は午後7時50分過ぎなのです。8時には取り敢えず外出札を戻しておかないと寮務の先生に事情聴取を食らうのです。

 そんな訳で余韻とか返答とかは一切無視して。

 全員、寮へ向けて走るのです!」


 うわっ、まずい。

 もうそんな時間だったのか。

 そんな訳で僕も彩香さんも美洋さんも。

 取り敢えず全員で走り出す。


 ここから寮までは走れば5分少々。

 つまり余裕はあまりない。

 なんだかな、と思いつつ。

 僕達は走る。

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