第274話 省力化案は失敗して

「展示だけで充分じゃないか」

 僕は極力手間をかけたくないのでそう提案する。


「それだとインパクトが足りないのですよ」


「なら料理研究会と同じで試食だけでもいいんじゃ無いのか?」

 亜里砂さんも僕と同じで手抜きしたい模様だ。

 でも。


「両方あってこそ野外活動の説得力が出るんじゃ無いですか」

 美洋さんにそう返されてしまった。


 1年生5人は2対3で積極派が多い。

 あ、そうだ。

 その前に一応聞いておこう。


「先生、料理を作って食べて貰うような活動は有りなんですか」


「ええ。ただし模擬店みたいな感じでお金を取るのは禁止ですけれどね。これは高等部も一緒。だから無料で試食させる程度になります」


 飲食物は禁止されていなかったか。

 残念。


「もし試食用を出すなら今まで以上に採取する必要があるぞ。出すメニューもわかりやすくかつ簡単な物で無いと、捌ききれないし」

 先輩は若干手抜き派に近そうな感じだ。


「ならスダジイのドングリがいいですね。学校の近くの山で取れますし、銀杏と違って食べられると言う事に意外性もありますから」

 彩香さん。真面目に厳しい計画を考えないでくれ。


「ある程度セルフサービスにすれば少しは手数が減らせるんじゃ無いか。煎って中身を取り出して味付けするのをそれぞれセルフでやれば。ポーダブルガスは5台くらいは用意できるし、小さいフライパンもそれ位は集まるだろう」

 先輩がそう省力化の意見を出すと。


「それもいいですね。でもこんなに美味しものも作れるという見本もやっぱり欲しいなと思います。パタピーみたいな簡単なのだけで無く、あのドングリ風味のクッキーなんかがいいですね。あとドングリ餅も」

 美洋さん、何故そういう面倒なものを!


 結局色々話し合いをした結果。

 強硬派に無難派が負けて。

 やることは盛り沢山になってしまった。


「取り敢えず平日はパネルを作って、休みの日は採取だね」

 元気よく彩香さんに言われて、ため息をつきそうになるのを堪えて。


「じゃあまず写真選ぼうか。植物なら生えているところ、魚なら釣った後の捌く前。あとは料理にした後の。それで整理して配置を決めて分担作って。拡大印刷かければA3かB4で何枚も貼ってつないで大きい表示ができるから」


「あと、ドングリの皮むきとかも平行してやっておいた方がいいぞ。ドングリ粉とかが作れる分量を剥くのはかなり時間がかかる。専門の担当を決めるのは可哀想だから皆でノルマ作って、文章作業の傍らちまちま剥いていく感じにした方がいいな」


 そんな訳で。

 1ヶ月後の文化祭に向けて。

 面倒な作業が始まってしまった。

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