第269話 思った以上に簡単に?

「無事エサをつけたら、竿を下にやって、上に上げるだけの反動でさっと仕掛けを投げる。川の幅がこれだからこの程度の投げ方で充分。道路だからフルに投げると危ないしさ。

 あとは待つなり、ちょっと引いて確かめるなり自由」


 そう言って先輩はクーラーボックスの中からタッパーを取り出す。


「このタッパーの中に氷とホタテ貝柱2個が入っている。ハゼを釣ったらこの中に入れる。氷が入っているから少しの間は大丈夫だ。そしてある程度たまったら、このクーラーボックスに入れに来ればいい。場所は駅の裏から川沿いを河口までまで。その間を自由に自転車で動いて釣ってみてくれ。なお移動時は針の扱いに注意しろよ。あと自転車で移動の時は必ず竿は短くして動くように。以上だ」


 そんな訳で、各自に仕掛けとタッパーが渡される。


「氷や予備の仕掛けは私が持っている。遠慮無く言ってくれ。なおお昼まで位が勝負だ。あまり長くやっても疲れるしさ。以上、というところで」


 先輩は最初に投げた仕掛けをすっとあげて巻いてみる。


「調子がいいとこうやって早速釣れたりする訳だ」

 掌よりちょっと大きいサイズの魚がかかっていた。


「では開始!」

 そんな訳で街中でのハゼ釣りが始まる。


「どうする?」

 彩香さんが僕に聞いてくる。


「そうだね。ちょっと上流に行ってみようか」


「こっちはもう少し下流の太いところを目指してみるのですよ」

 未亜さんと美洋さんは下流方向へ。


「私は少しここでやってみるのだ」

 亜里砂さんはここでやるようだ。


 そういう訳で僕と彩香さんは上流方向へ。

 ちょっと行くと反対方向に自動車が入れない道があった。


「あそこの道がちょうどいいかな」

 という事でそっち側へ。


 更にそこの道に碑があって少し公園のようになっていた所があったの。

 そこに自転車を止めて釣りの準備。

 思ったより細く千切れそうになる貝柱相手に苦戦しつつ、何とかエサをつけて。

 僕より早くエサ付けに成功した彩香さんが軽く仕掛けを投げる。


「でもこれって、食いついたかわかりにくそうだね」

「そうだね。時々引っ張ってみるしか無いんじゃないかな」

 そう言いつつ僕も投げてみる。

 失敗。

 斜め横、1メートルくらい先にしか届かなかった。

 でもついでだからちょっとだけ待ってみる。

 狭い川の何処にハゼがいるかはわからない。

 遠くに飛ばした方が有利とは限らないから。


「あ、かかった」

 彩香さんは早くも1匹目を釣りあげた。


「これってエサと同じタッパーに入れても良いのかな」

「多分氷が入っているから大丈夫じゃ無いか。冷たいと変温動物は弱いだろうし」

 そう言いながら僕は仕掛けをちょっと引っ張る。

 何か微妙な感触。

 これはひょっとして。

 リールを巻いてみるとやっぱり。

 小さいハゼがついていた。

 思った以上にこの川、ハゼがいるようだ。

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