第242話 普通に美味しい採取食
「そんな訳でさあどうぞ。お茶も自家製だ」
そう言われても葛餅のような感じの餅がちょっと茶色い以外、見た目は普通のものと変わらない。
お茶も麦茶っぽい感じだし。
「いただきます」
ということで先輩を含み6人で食べてみる。
うん、餅はちょっと固めの葛餅だ。
普通に美味しいとしか言い様が無い。
あんこと一緒に食べるとまさに普通に美味しい。
きなこの方は……あ、ちょっとだけ普通のきなこと違う香りがするかも。
でも。
「何かドングリという感じはしないですね。普通に売っている美味しい冷たい和菓子という感じで」
「ちょっと餅の方はあく抜きやり過ぎたな。もう少し渋みを残した方がらしいかもしれない」
「でも上品で美味しいです。あとこのきなこの方が、遠くで山の香りを感じます」
先輩はウンウン頷く。
「きなこはスダジイ潰しただけだから素直にドングリ味なんだ。砂糖は加えているけれどさ。ちなみに餅はマテバシイ。昨年はマテバシイが豊作だったからさ、マテバシイからデンプンを取り出したりもしたんだ。流石にこれで在庫切れだけれどさ。
あとあんこ、本当は野生の小豆を使いたかったんだ。粒が小さくて集めるのが大変なんだけれど、普通の小豆より絶対美味しい。ただ小さいから集めるのが本当に大変で、昨年も結局1回ぜんざいを作っただけで使い切ってしまったんだ」
小豆も野生があるのか。
あとこのお茶もだよな。
そう思ったら美洋さんが代わりに質問してくれた。
「この麦茶も何か採取した野草なんですか。何か市販の十●茶を濃くしたような感じですけれど」
「それはジュズダマ茶。これも昨年からの貯蔵品。猫じゃらしとドクダミの葉もちょっと入っている。これが最後かな」
そんな怪しげな内容なのに、味はある意味普通の感じなのが面白い。
確かに市販の十●茶を濃くした感じだけれど。
「これってでも、相当に手間かかっていませんか、餅もそうですけれど、きなこやお茶とかも」
「そうでもないさ。お茶は昨年度に作って冷凍したものだし、実は餅も昨年中に作ったマテバシイデンプンの残りを使っただけだしさ。きなこは確かにドングリのカラをむく時間がかかったかな。まあ一度フライパンで煎れば簡単だけれど。それをすり鉢ですりすりしただけで」
いや、それだけでも充分手間がかかっていると思うぞ。
そんな訳で。
「美味しかったです」
全員が完食した。
先輩はタッパーとゴミ類をまとめて片付けて。
「次は12時半に来る。今度は野外採取ものではなくて普通の料理なんだけれどさ。まあ期待して待っていてくれ」
そう言って扉の外へと姿を消した。
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