第210話 ベジョータとは団栗という意味です

「初めまして。仲代悠です」

 改めてこっちも自己紹介する。


「それで悠は何故にこんな夏休みに学校にいるのだ」


「昨日まで実家に帰っていたけれど、何もする事が無くて暇なので」


「なるほど。私と同じなのだ」


 彼女の自称の方がインパクト強すぎて名前を思い出せない。


「ベジョータさんは家は何処なんですか」

 なので自称の方で効いてみる。

 取り敢えず一番上質な方で。


「マンションは縦浜のみなとみたいにあるのだ。でも両親は常に海外をほっつき歩いていて留守なのだ」


「近いじゃないですか」


「近いのだ。でも誰もいないし近所に知り合いもいないのだ」


 なお彩香さん、まだ話題についてきていない。

 学科としての地理はわかっていてもこの辺の地理は今一つだから。


「縦浜のみなとみたいというのは最寄り駅から30分位で行ける大きい街。デパートとか色々あって楽しい処だよ。運賃もJRで300円位かな」


「そうなんだ」


 彩香さん、少しわかってくれた模様。

 そして自称ベジョータさんとの会話に戻る。


「でもみなとみたいなら、買い物とか散歩とかお店を見て歩くにはいい場所じゃないですか」


「その通りだけれど1人では飽きるのだ」

 なるほどな。

 そう思ったところで。


「その縦浜って、歩くとどれ位の時間がかかるのかな」

 彩香さんがとんでも無い事を言った。


「歩くと……結構遠いんじゃないかな、半日くらいかなあ。あと途中あまり治安のよくない場所もあるらしいからあまりお勧めはしないな」

 そう僕が常識的な意見を言ったところで。


「いや、なかなか面白いかもしれないのだ」

 ベジョータさんがそんな事を言う。


「それは結構相談の価値があると思うのだ。プールの後で3人で相談なのだ」

 何だって?

 本気か?

 そう思ったところで。


「休憩終了です。どうぞ」

 と先生の声がかかる。


「では詳しくは水泳後なのだ」

 ベジョータさんはプールの反対側へと戻っていく。

 彼女なりの定位置があるらしい。


「さあ、泳ぐ練習」

 という事で。

 僕は彼女の言葉が気になりつつも、彩香さんの練習に付き合うのだった。

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