第203話 現地最後の夜

 そして最後の夜。

 最後なので色々取っておきが出る。

 夕方までに獲った牡蠣とか。

 試作品西京漬けスズキとか。


 ただ一番が評判が良かったのは、朗人先輩特製かまぼこだった。

 昨日夜の大漁魚捌き大会で出た剥き身を使って作っていた奴だ。

 色はちょっと灰色に近い。

 微妙に時々異物感がある事もある。

 でも。


「何これ、こんなにかまぼこって美味しいの」

 そういうレベルだ。


「材料がいいからさ。新鮮だし。つなぎもほとんど無しで大丈夫だった」


 瞬殺で無くなった。

 まあ1人2切れ分程度しか無かったのだけれど。


「悔しいのです。こんなに美味しいとわかっていればもっと作らせたのです」


「作るのが面倒だからね。とにかくすり鉢ですりまくるし。今回は剥き身を使ったから少しはましだったけれどね」


「逆に手間がかかっているような気もするのです」 


「だって勿体ない。あんなに骨に身がついたままだったらさ。あとかまぼこはお土産用に2個作ってあるから、1個ずつ各学校で持ち帰ってくれ」」


 他にも牡蠣は当然美味しい。

 刺身も間違いなく美味しい筈なのだけれども、何せ毎日食べている。

 だから舌が慣れてしまっている訳だ。

 きっと後で、あああの時の刺身を食べたいと思うのだろうな。

 それはわかるのだけれど、ちょっと飽きている。


「それで明日はどうしますか。何時にここを出る?」


「片付けは一通り終わりましたしね。今晩移動してもいいですけれど」


「ごめん、この家、最終的には目視で移動しているんだ。スマホでGPSを確認することも出来るけれど、細かい部分は目視。だから明るくないと場所がわからない」


「なら明日朝起きて、散歩して、それからでしょうか」


「そうなのですね」


 という事で。

 深草分の荷物を部屋の端にまとめて。

 交代で風呂に入って。

 最後なので皆で話しながらカードゲームをして。

 そして男子勢はこそこそとキッチンで眠りにつく。

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