第196話 釣ったからには義務なのです

 そして夕食後。

 釣った魚は当然自分達で処理しなければならない。

 その結果。


「アンチョビにするなら全部3枚下ろしですね。浸けてから骨を取るのが本式ですが色々大変なので」


 草津先生のそんな言葉で。

 美洋さん未亜さん共々魚捌きマシーンのようになっている。

 難しいことは特にない。

 ただ、数がとんでも無く多い。


 そして僕と彩香さんはこれまたソーダカツオやスマの処理に追われていた。

「こっちのカツオは鮮度がすぐ落ちますからね」

 そんな訳だ。


「これは捌くだけで腱鞘炎になりそうなのですよ」


「大きいのたくさんと小さいの目一杯はどっちがいい」


「何も考えずに手先を動かすのが正しいと思うのです」


「そうだな。何も考えずにマシーンになりきれ」


 そんな感じで包丁を動かしている。

 川俣先輩は小魚組の助っ人として参加。


 なお秋津組もやはり皆様苦労している。

 魚は黒鯛とかイサキとかコロダイとかだ。

 ウツボも3本混じっている。


 なぜ苦労しているかの理由は簡単。

 秋津の料理最大戦力であるところの朗人先輩が参加していないから。

 秋津組も夕食を朗人先輩1人に任せて魚獲りをしていたそうだ。

 ほかにセルビンの回収もしてきたらしい。

 数は少ないが、深草組うちより捌くのが大変な魚が多いので苦労は同等かな。


「黒鯛の捌き方はやりましたよね。あれと同じですよ。腹から包丁入れて中骨まで切って、次は背中から中骨まで。アジとかみたいに上下いっぺんには無理ですからね」


「朗人、中骨までうまく届かないのです」


「2回でも3回でもいいから同じ処から包丁を入れて、とにかく切れるまでやって下さい」


 朗人先輩は手助けしない。

 うちよりスパルタだ。

 ただ朗人先輩は指導監督だけでは無い。

 ウツボとか素人がどうしようもない魚はささっと捌いてくれる。


 他にも。

「ああ、あの骨剥き身が一杯取れそうだな」

 なんて言って、秋津組の捌いた後の骨部分からちまちま肉を取ったり。

 慣れない人間が捌くからどうしても骨に肉がそこそこ残ってしまうのだ。

 更に大きめの魚は頭を割って内部の肉をほじくり出したり。

 容赦無く小技を使って色々肉をかき集めている。


「参考までにその肉片はどうするのですか」


「このまま食べてもいいし、でんぶやつみれに加工してもいい。すりすりしてかまぼこ自家製なんて作ってもいいな」


「美味しいかまぼこが食べてみたいです」


「わかりました。先生、すり鉢使います」

 そんな感じで。

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