第129話 昔SNSで流行ったペンギン

「正直、一時の私にとって裕夏さんは目標であり憧れでもあったのです。実際、あの人はあの時点で最強に近い術士だったのです。一介の後取り候補と言えど正規の術士より力は上だったのです。目標でもあったし憧れでもあったのです。


 だからある日、突然いなくなった事で衝撃を受けたのです。術士の後継としての義務と権利を放棄して里を出た。そう聞いた時は裏切られた気もしたのです。

 私以上に才能も家柄も何もかも持っていた筈なのにと、そう思ったのです」


 色々な事情があったんじゃ無いかとか、そういう事はあえて言わない。

 僕以上に未亜さんの方がその辺気づいているだろうし知っているだろうから。

 だから僕が出来るのはきっとひとつだけ。

 話を聞くこと。


「我ながらなっていないと思うのです。事情も本人の意志も希望も里のほとんどの大人より知っている筈なのです。

 ただそれでも納得出来ないのです。納得しているけれど納得出来ないのです。言っている事がおかしいのはわかっているのです。それでも……」


 そう。

 きっと未亜さんは全部わかっている。

 色々全部わかっている上で、それでも。

 心の中が納得してくれないのだ。


 ただ、それにどう返答するこたえるかが思いつかない。

 未亜さんの方が僕より頭の回転も早そうだし。


 ならば。

 いっそ簡単に、僕の出来る範囲で。


肯定こうていペンギン、って知っているか」

「南極に住む最大種のペンギンなのですよ」

 うん、言われると思った。


「それは生物的に正しい答だけれど、僕が言おうとしているのは皇帝ではなく否定の反対語の肯定の方。ちょっと昔にSNSで流行った、何でも肯定してくれるペンギン。本来は疲れた社畜を慰めるという大人用のキャラクタなんだけどね」


「そんなのあるのですか」

「何なら検索してみたら」


「そうするのです」

 未亜さんはスマホを取りだして調べ出す。


「おお、本当にあったのです。なかなか可愛いのです」


 さあ、ここからだ。

 こっちが気恥ずかしくなる前に一気に攻撃に出る。


「そんな訳でそのペンギンを見ながら。

 未亜はえらい。そういう思いがあったにせよ美洋を心配させないようにしていて。

 未亜はえらい。それでも直接裕夏さんにつっかからなくて。

 未亜はえらい。裕夏さんの立場や考え方をわかろうと努力していて」

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