第110話 カヌー体験の終わりに

 翌朝。

 焼いたパンとトマトと卵のスープ、ヤングコーンやツナ缶、ブロッコリーなどのサラダを食べて。


 今日の僕は朝出発組。

 だからすぐカヤック準備にかかる。

 今日はシットオンという、要は上に乗っかるだけのタイプの艇。

 後は柏先輩だ。


「今日は宜しく」

「宜しくお願いします」

 という事で出発する。


 今日も男性組は最後の出発。

 ただ今回は昨日の成果もあってか、皆さん余裕がある感じ。

 艇をカーブでスライドさせるのも綺麗に決まる。

 柏先輩もほぼ姿勢制御だけで操っている感じ。

 ただ乗り換えた区間、微妙に柏先輩の方が重いらしくちょっと苦労したけれど。


 そしてあっさりと見覚えのある赤い橋へ。

 楽しい時間の終わりを告げる目印だ。


 今回は女性陣もそれなりに体力が残っていたらしい。

 片付けを手伝ってくれた。


 そして着替えて出発地のキャンプ場に戻る途中の車内で。

 僕だけじゃ無い。

 全員がこれで終わりで残念という感じ。

 そんな雰囲気を察したのだろう。

 運転中の草津先生が教えてくれる。


「ここは確かに綺麗で流れがいい川ですけれどね。平地の流れのゆるい川で遊ぶのも楽しいんですよ。魚を始め色々な生き物が多いですからね。細めの水路なんかに入ると小魚が飛び込んできたりする事もあります。それこそ利根川の中流くらいの処とかでもいいです。そういう別の楽しさがあるんですよ」


 確かにそう言われてみると。

 そんな楽しみ方も面白いかもしれない。


 更に小暮先生がとんでもない事を言う。

「それに草津先生、このうち2艇はキープしたんですよね」


「ええ。於田先輩から今回譲り受けたんです。一戸建てからマンションに引っ越すそうなんで。あとFRP製のカヌーも1隻追加ですね。今回は持ってきていないですけれど」


 つまり3隻はあの家にキープしたという事か。

 その気になればいつでも使えると。

 しかし気前がいい先輩がいるものだ。


 更に。

「でも小暮先生もこの前ミニホッパーをオークションで落札しましたよね。状態いいから夏までに霞ヶ湖あたりで試したいって言ってませんでしたっけ」

と草津先生が爆弾投下。


「クッチー駄目、あれはまだ生徒には言っていなかったのに」

と慌てている小暮先生の台詞に被せて。

「ミニホッパーって何ですか」

 そう石動先輩が尋ねる。


「1人用の小型のヨットよ。風がいい感じに吹いていれば最高に楽しい乗り物です」


「あ、先生ずるいのですよ」


 たちまち発生する抗議と、小暮先生の弁解。


「だって1人乗りですし、生徒が沖合で沈したら助けられないじゃないですか」

「魔法使い2人と念動力持ちと空飛ぶ宴会場があるのです」

「せめて昔のカンを取り戻すまで1人で練習してからです」


 それにしても……

「それにしても先生達、どれだけ色々そういう遊びをやっていたのですか」


 皆の疑問を代表して松戸先輩が尋ねる。


「登山系を除けば、あとはダイビングと素潜りと、モトクロス位でしょうか」

「クッチーはあと野生の食物採集ですね。大学時代、海で防波堤にへばりついた牡蠣を食べすぎて酷い目に遭った事もありましたっけ」

「それは若さ故の過ちです」

 先生方2人とも、まだまだ色々引き出しを持っている模様だ。

 つまり今回のカヌーが終わっても、まだまだ楽しい遊びは色々あるという事か。


 マイクロバスはキャンプ場へ向かっている。

「霞ヶ湖と言えば、霞ヶ湖マラソン大会でコスプレして走ったのも懐かしいですね」

「あれは小暮先輩がやろうって言ったからじゃないですか」

「セーラー服スタイルは恥ずかしかったですね。でもステッキ片手に自作のフリフリな魔法少女コスチュームで走ったクッチーの度胸には勝てなかったです」

「その黒歴史は生徒の前で言わないで欲しかったです……」

 そんな先生方の暴露大会をBGMに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る