第100話 艇長は難しい

 確かに。

 後にいると艇の動きがよくわかる。

 重心が前に来ている分、艇の動きが変わったのも。


 理論的にバランスを考えると、この場合は……

「先輩、次の指示で右右お願いします」

 そう言って僕は川本流のやや左側に艇を位置させる。


「了解」

 先輩はパドルを上げた状態で待機。

 僕は左右に漕いで舟の向きを流れと同一に保って。


 そして左へのカーブにさしかかる。

 カーブは緩いが流れが速い。


「右右、右右」

 先輩に指示しながら僕は左右に漕いでバランスをとる。

 先輩の漕ぐ力の方が強い。

 だから自然に艇は左にカーブ。

 僕は漕いだりブレーキをかけたり姿勢制御のみに徹する。


「上げて下さい」

 僕は左へ微調整をして、舟は本流のど真ん中へ。

 どうも重心が前にある分、先輩の漕ぐ力の影響が僕より大きいようだ。

 なら次の急な左カーブも先輩の力をあてにして勝負。


「次も右右からいきます」

「了解」


 というわけで次のカーブ。

 急で流れも速い。


「右右、右右」

 先輩に指示しつつカーブのイン側を通過。


「上げて、次も右右行きます」

 先輩は言うとおりに漕いでくれる。

 イメージより先輩の力というか漕ぐ影響が強い。

 でも先輩は常に同じように漕いでくれるのでわかりやすい。


「右右、あげて下さい」

 少し流れが緩やかになった。

 うん、確かに後は色々大変だ。

 漕ぎつつ前の状況も確認しなければいけない。


 しかも今は前後のバランスがあまり良くない。

 気を抜くと艇が回り出す。

 そのたびに僕が漕いで姿勢を保っている状況だ。

 

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