第74話 行きはよいよい

 パンとかサンドイッチとかおにぎりを食べて。

 ぼーっと景色を見ていたら。

 だんだん観光客の数が増えてきた。


 時間を見ると10時30分。

 まだまだ早い事は早いけれど。

「そろそろ行きますか。お買い物とかもしたいですし」

「そうですね」

 という訳で出発。


 走り始めてすぐに、僕達は色々な誤算に気づいた。


 例えば道路の左右の違い。

 行きは左が海だったからほぼノンストップで走れた。

 しかし帰りは左が街。

 交差点のたびに徐行して確認する必要がある。


 そして向かい風。

 これも地味に体力を奪う。

 なにせ常にこいでいないと速度が落ちるのだ。

 帰りで少し疲れているというのに。


 お尻の痛みもいよいよ本格化。

 美洋さんが時々立ちこぎしているのは坂のせいでは無い。

 この道にそんな急な坂は無いから。


 これは……結構しんどいかも。

 行きに比べて大分速度が落ちている。

 行きは時速20キロを切る事が無かったのだが、帰りは18キロがやっと。

 しかも所々で交差点により一時停止したり徐行したり。

 行きに休んだ公園にまだ着かない。

 あれは半分よりこっち側だった筈なのに。


 そんな感じで走って。

 赤信号で皆一緒になった。


「もう自転車畳んで枝ノ電で帰りましょうか」


「蒲倉で重い自転車抱えてJR乗り換えなのですか。しかも観光客で混んでいるのですよ。ここでの正解は諦めることなのです。黙ってこげば何時かは着くのですよ」


 シビアで正しい意見が返ってきた。

 でも何の救いにもならない。

 既にギアも行きより2段くらい下を使っている。

 栗原さんががまだ大丈夫そうなのが救いか。


 信号が変わる。

 隊列はそのままで。

 4人とも黙って順にこぎ始めるのだった。

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