月の蜜を両手に掬え

爽月柳史

《月》

地球の衛星。太陽の光を反射し、輝くように見える星。****年までその存在が確認されていたが、現在では観測不可能となっている。実在については議論が分かれており、痕跡すら存在しないだろうという説、アーロフィルムに隠されただけで今も存在している説がある。転じて、「存在しない/不確かなもの」の意としても用いられる。

「その可能性は―のようなものだ」


***


 兄の名を「月」と言った。過去形なのは居なくなってしまったから。

 ある朝起きたら、兄は忽然と姿を消していた。それどころか、兄がいたという事実さえ無くなっていた。





 ───兄は名実共に「月」になった。

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