中の人の交換時期が近づいてます

ちびまるフォイ

世俗離れした貴族の発想

新学期もはじまって浮かれていたあの頃を殴りたい。


ええ、なにか新しい恋でも始まるかと思いましたよ。

クラス替えの結果に何か出会いがあるかと思いましたよ。

新しい友達ができるとか思い描いておりましたよ。


「なんだこの状況は!?」


「おい、杉田。授業中だぞ」


教室は笑いに包まれた。いや、笑われに包まれた。

新しい担任の先生は驚くほど慕われてクラスの人気者にして生物界の頂点。


しかし、新学期デビューにことごとく失敗した俺は路傍に転がる石より存在感がない。


「お母さん、俺、ゼミやりたい!!」


「いったいどうしたの急に」


「新学期から出遅れた自分を取り戻したいんだ!

 そして、リア充な日々を満喫したい! 漫画みたいに!!」


「あの漫画を描いている人が、あんな漫画みたいな日常過ごしていたら

 ゼミの漫画家になんてなってないわよ」


「そ、それじゃ、中の人を変えたい!!」

「それならいいわ」


ということで、新しく中の人を変えるために専門店にやってきた。


「さて、どの中の人がいいかな……?」



・明るいクラスの人気者  [現在品切れ]

・ユーモラスな神秘キャラ [現在品切れ]

・マイペース愛されキャラ [現在品切れ]



「ちょ、ちょっと店長! どうなってるんですか!

 ほとんど品切れになってるじゃないですか!」


「まぁ、新学期デビューをする人は多いからねぇ。

 この時期は中の人をよく買われていくんだよ。ああ、こっちは残っているよ」


・パソコン大好きな中の人

・同窓会に呼ばれないタイプの人


「いらないよ!!」


「いっぱい余っているんだがねぇ……」


「なんでこんな見るからにクラスで空気扱いされそうな中の人を、

 こんな状況で入れ替えなくちゃいけないんですか!」


「あ、入れ替えても大して変わらないって話?」

「ちがいますよ!! もういいです!!」


店を出て、ほかの店に行っても結果は同じだった。

どの店も求めるような「人気者」の中の人はなかった。


「ダメだダメだ。きっと、変に手近な場所で探そうとするからダメなんだ。

 ちゃんといいものを買うには、それだけのお金が必要なんだ!」


ネットで検索すると、値段は高くなるものの人気者の代名詞である

芸能人の中の人が売られていた。


「おお! これしかない!!」


迷わず購入した。

値段は普通の中の人を買うよりもずっと高かったが、

得難き人脈やら、一生の買い物だと思えば安い出費だった。


かくして、ニュー中の人に入れ替えて学校へやってきた。


ここから俺の快進撃がはじまる。


「え、ちょっと待って。靴紐? なにこれ、どう結ぶの?」

「ボールペンくらい教室に常備しておけばいいのにね」

「は? 弁当? なんで? 昼食くらい出るでしょ、普通」


「杉田、お前なにさまだ」


先生の一喝は生徒のスタンディングオベーションを巻き起こした。


快進撃どころか世俗離れした俺の言動の数々は大炎上を重ね、

クラスメートからは「狂人」として扱われてしまった。


「や、やっちまった……」


後悔してもすでに遅い。

中の人を取り換えた以上、体は中の人に引っ張られる。

制御しようにも勝手に体が動いて批判されてしまう。なんという宿命。


すっかりクラスで居場所がなくなったとき、肩をポンと叩かれた。


「杉田、お前大丈夫か?」


「先生……」


「なにか悩んでいるなら先生に話してみろ。相談に乗るぞ。

 これでもお前の担任だからな」


担任の先生の優しさがあるから、みんな先生の言うことに従うのだろう。

人格者の周りにはいつだって人が集まる。


「先生、あの……中の人を――取り換えてくれませんか!?」


「中の人を?」


「先生の中の人を取り換えれば、きっと俺は人気者になれます。

 ずっとじゃなくていいんです。

 クラスの中での居場所ができるまで貸してください!」


「それはできないな」

「そんな!」


「僕が君に中の人を貸して、人気者になることは簡単だ。

 でもそれは同時に君のこれまでの努力や悩みを奪ってしまうんだ。

 大事なのは答えを手に入れることよりも、その解決法を探すことなんだよ」


「先生……! 俺、目が覚めました!」


「わかってくれたかい」


「はい! もう中の人を取り換えるなんて言いません!!」



翌日から、学校は楽しみなものになった。


クラスの女子は断ってもひっついてくるし、

男子生徒とは友達のように接することができるし

さらにはほかの教師まで俺に接する機会も増えた。


「ああ、やっぱり俺の決断は間違っていなかった! 学校最高!!」


求めていた生活をついに手に入れ、幸せの絶頂を感じた。

一方で、クラスに1人だけおかしな奴がいる。


「みんな信じてくれ!! 俺はあいつに

 外の人を強引に好感させられたんだ!!

 あいつは、俺の外の人を使っている! 信じてくれ!!」



「杉田、なにわけわかんないこと言ってる。

 授業中なんだから静かにしろ」

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