アメフト悪質タックル事件の本質
現在世間を大いに賑わしている事件のひとつにアメフトにおける悪質タックル事件がある。
これは大学アメフトチームの試合でルールを逸した悪質なタックルにより相手チームの選手に全治3週間の怪我を負わせたというものだ。
SNSに投稿された問題の映像により、その事が周囲に広がり大問題に発展したということだが如何にも近代的な炎上の仕方だと思う。
元々アメフトという球技の中では限りなく格闘技よりのスポーツで、ルール違反で怪我を負わせたとはいえいささかマスコミや世論の熱しようは過大な気がしなくもない。
結局、必要以上に取り上げらているのには理由がある。
加害者側の大学の監督が絵に描いたような絶対権力者で、加害者選手が判断能力を失うような状況化に置かれていたこと、責任者サイドがのらりくらりと不十分な弁明をするなかで、加害者選手が単独で立派な記者会見を行ったこと。
まるでドラマや小説のような人間関係の設定に、加害者選手単独の会見といったようなドラマチックなほどの展開に興味を持つなと言う方が無理からぬことだろう。
この事件による周囲の盛り上がりには某有名サッカー選手が『あのタックルは罪だし究明もすればいい。ただこのニュースにいつまでも過剰に責め続ける人の神経が理解できないし、その人の方が罪は重い』と苦言を呈しているほどだ。
先も述べたように絵に描いたような絶対権力者の監督の指示(と受け取ってしまった)により判断能力を失ってルール違反を犯してしまった加害者選手の心境は、周囲の人々には十二分に伝わっている。
仕事に置き換えてもそれは同じだ。自分は正しくないと薄々感じていても、それがルール違反だと解っていても人事権を握っている上司には決して逆らえない。逆らったらクビになると言われたらもう逃げ道はないだろう。
そんな状況に加えてあの見事なまでの記者会見だ。世論の大半はもはや加害者選手を単なる加害者と思ってはおらず、心のどこかでは被害者の一人だと認識しているのではないだろうか。
被害者側の監督も保護者も対応不十分な相手の監督責任を追及したいだけで、コメントから見ても相手選手の反省は十分に認めており、決して彼の非を糾弾したいわけではない。
しかし刑事告訴となればそうもいかない。これが犯行と認定されれば理由はどうあれ加害者選手は実行犯として法裁きの矢面に立つことになる。
行きつくとこまで行ってしまえば、それは誰しもが心にしこりを残す結果となるだろう。
この問題の本質はここらへんにあるのだと思う。
感情論が先行し過ぎているのだ。
元を正すと問題の原点は加害者選手のルール違反と被害者選手の怪我にある。
ルール違反があっても被害者選手が怪我をしていなければ良いのか、それとも選手が大きな怪我を負ったとしてもルールの範囲内なら問題ではないのか。
ルールに沿った強烈なタックルで有力な相手選手が怪我により欠場したのなら、それを万々歳だと思うアメフト関係者は少なくないだろう。
『相手を潰せ』という指示がルールに乗っ取ってのことならOKだとすると、ルール線引き前後により相手を負傷させることの正義か悪かのジャッジは余りにも曖昧になる。
そう考えると、アメフトという怪我のリスクを承知の上でタックルしてボールを取り合う競技そのものが世間には理解し得ないものなのかもしれない。
それを『ルール違反』という点だけで無理に是非を考えようとしているから、問題の本質が見えてこないのではないだろうか。
一般人の見解でこの問題の本質を突き詰めていけば、ラフプレーに対するルール上の罰則が甘いうことになる。審判による危険行為への退場がもっとシビアであればその危険を冒してまでラフプレーに走るものが少なくなるのは間違いない。
しかし現状の現場判断は反則の積み重ねでの退場であり、問題になっている行為そのものは一発退場という危険レベルの認識はされていないのだ。
問題になる前の状態で冷静に見るならば監督からの指示があろうがなかろうがラフプレーを『やりすぎたのが問題』であって『もう少し控えめだったら問題にならなかった』というところは恐らく否めない。
感情論抜きでこの問題の本質を正しく認識するとしたら、大学組織の人間関係にばかり焦点を当てるのではなく、アメフトという競技そのものの特質を再認識する必要があるのだと私は考える。
どうしてこのようなプレーが行われたのか?という疑問がマスコミを通じて多々発言されているが、『出来れば許される範囲内で相手選手に怪我を負わせたかった』のだが、許される範囲を超えてしまい一般人にはそれがより異常に見えた、というのが多分ことの顛末だ。
世間の感情論を与すると決してそんなことは言えないだろうが、このことをはっきりと言わなければ曖昧なまま問題は風化されてしまうことだろう。
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