両腕の無い魔法剣士

ぼくがかんがえたさいきょうのかんがえかた

両腕の無いパン屋

第1章 プロローグ

 空はよどんだ紫、地面は灰に染まっている。そして、異形の魔物達が多く歩いている。広がる荒野には、かつて高くそびえ立つ城と、それに隣接している人でにぎわう城下町があった。それが今となれば、瓦礫がれきの山があちこちにあるだけの、あまりに殺伐さつばつとした場所に変貌へんぼうしている。この世界で一番とも言えるほど栄えた地は、完全に壊滅した。それは何故か… 答えは簡単、魔界からの軍勢が攻めてきただけの事。


 30年程前、この世界に巣食っていた魔王は人間達によって倒されたとされている。倒した時の真相はどうであれ、倒された事は間違いない。それから数年で、魔物もほとんど消えた。人間達はまた平和に暮らし始めていた… それは良かったのだ。


 ただ、人間は調子に乗りすぎた。残った魔物を玩具がんぐの様に扱い、大勢の前で残虐ざんぎゃくに殺す遊びも流行っていた。邪神はそれを目障りに思い、異形の魔物を大量にこの世界に送り込んだ。敵がいなくなり、戦力を放棄ほうきし始めていた人間達に為す術なすすべは無かった。魔物に侵略され、この世界の九割以上は占領された。残った人間は残された自分達の陣地から出る事を禁止し、今も少しでも世界を取り戻そうと、非常に非力ながらも魔物にあらがっている。


 …さて、人間達は陣地から出る事を禁止されている筈。出たら一瞬で魔物に見つかり、今まで自分達が魔物にしていたように残虐に殺されるだろうから、出ようとするおろか者は居ないだろう。

 ……何故、この荒野には少年が一人、人間の少年が一人いる?




 瓦礫の裏で息を殺して隠れている、一人の少年。やはり来るんじゃ無かったと激しく後悔し、深く溜め息をつこうとする… したら見つかるかもしれないので、やめておく。瓦礫の隙間からこっそりのぞいて見るが、やっぱりダメだ。見ただけで鳥肌が立つような魔物がウヨウヨといる。運の悪い事に、ここにいる殆どの魔物は全方位、360度に目が付いている。こっそり逃げ出そうとした所で見つかり、捕まるだろう。もう死ぬしか無いのだろうか。再び、激しく後悔する。


 この少年はリュアルと言う。少し顔立ちが整っていて、小柄こがらなだけの普通の少年だ。


 両腕が無い事以外、は。

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