第11話

 僕らが街へ戻るのを再開しようとしたそのときだった。ユニコーンが三体のドラゴンに追いかけられているのが目に入った。真っ白な馬の額に一本の角。そして、背中には人が乗っている。ユニコーンは攻撃を受けているようだった。PKプレイヤーキラーだ。ユニコーンのプレイヤー名に初心者マークがないところを見ると、初心者狩りではないようだが。

 グリフィンは、ユニコーンと三体のドラゴンの間に割って入る。人面魚じんめんぎょもそれに続く。

「おいっ!三対一はいくらなんでも、卑怯ひきょうだろ!」

助太刀すけだちいたす」

 せっかく僕がかっこよく啖呵たんかを切ったのに、タカときたら。

「なんだ、お前……。人面魚って、あのときの!」

 一体のドラゴンのプレイヤーが言った。あのとき?ドラゴンの体を見ると、三体のドラゴン全て肩に『KQ』の文字があった。

「初心者狩りのドラゴンか!」

「あのときのお礼、たっぷりさせてもらうぜ!」

 そういうと、一体のドラゴンがグリフィンに向かって尻尾を振った。グリフィンは後ろに吹き飛ばされた。体に二百台の数字が浮かぶ。人面魚も同様に吹き飛ばされた。

 チームを組むと、仲間の状態も分かるようになる。人面魚は今の一撃で体力を削られたが、まだ瀕死ひんしにはほど遠い状態だ。

 上空から大きなしずくが落ちてきた。雫はユニコーンを包み込む。その間にグリフィンは上空へと舞い上がった。雫がはじけると、ユニコーンの体が光り輝く。光は体の中へと吸い込まれるように消えた。

 グリフィンは体をきりもみさせながら急降下し、ドラゴンへと突っ込んだ。そのまま、グリフィンは再び上空へと姿を消す。再度、急降下。今度は体をきりもみさせていない。降下の勢いで、ドラゴンに向けて前足を振り下ろした。

 鋭いくちばしと爪での連続攻撃に、ドラゴンは断末魔だんまつまを上げて消えた。それを合図に、残りのドラゴンは撤退てったいを始めた。

 僕は心の中で、ため息をいた。正直なところ撤退してくれて、ほっとしたのだ。スキルを使用するのにも、SPスキルポイントを消費する。この数値は自然と回復する。神獣しんじゅうは、この力を大気から得ることができるかららしい。しかし、回復する速度が遅いのだ。

 今の攻撃で、SPがほとんどなくなってしまった。もう一度、同じ攻撃はできそうにない。前の戦闘で、半分以上SPが減っていたのだ。にも関わらず調子に乗って、レベルが四十になったことにより覚えたスキル『急降下爆雷きゅうこうかばくらい』を、すぐに使ったせいだった。

 ドラゴンたちが完全に見えなくなる。もう攻撃されることはないだろう。

「じゃ、気をつけてくださいね」

 僕らはユニコーンのプレイヤーに声を掛けて、街へ戻ろうとした。

「ちょっと待ってください!ドラゴンバスターの方たちですよね?」

 もし、隣にタカがいたら、二人で顔を見合わせていたに違いない。

「そうですけど……」

 僕らは、そのプレイヤーの次の言葉を待った。まさか、初心者狩りをしていて、僕らを恨んでいるのではないだろうか。

「私を仲間にしてください!お願いします!」

 僕は頭の中が真っ白になった。ゲームをしていれば、こういうこともありえるのだ。オンラインゲームには僕らしかいないわけではないのだから。

「ちょ、ちょっと待ってくださいね」

 タカはそう言うと、チームモードで僕と相談を始めた。

「キョウ、どうする?」

 僕もチームモードで返す。この会話は目の前のユニコーンのプレイヤーには、聞こえないはずだ。

「びっくりしたぁ!知らない人から、そんなこと言われると思ってなかったよ」

「オンラインゲームだからね。こういうこともあるさ。で、どうする?」

「僕は別に構わないけど」

「女の子だしなぁ」

 そういえば、私って言ったっけ。おどろきすぎて、そんなことを考えている余裕がなかった。

「ユニコーンって強いの?」

「さあね。ただ、女の人しかユニコーンの相棒にはなれないんだよね。だから、数は少ないと思うよ」

「そうなの?……ドラゴンじゃないし、仲間に入れてもいいと思うけど。とりあえず、理由を聞いてみようか」

「だな、そうしよう。キョウが聞いてよ」

 僕は、ユニコーンのプレイヤーに切り出した。

「お待たせしました。えっと、なんで僕らがドラゴンバスターだってわかったんです?」

「人面魚とグリフォンのコンビなんて、そういませんから。最近、初心者の中では有名なんですよ。初心者狩りから助けてもらった人が多くて」

 僕らも少しは有名になってきたんだ。思わず、顔がほころんだ。もう仲間に入れてもいいかな。

「そ、そうなんですか。で、なんでドラゴンバスターに入りたいんですか?」

「実は……、私も初心者のときに助けてもらったことがあるんです。それからずっと、あこがれてて」

 僕の中での、独眼龍どくがんりゅうみたいな存在なのだろうか。僕の場合は、戦ってみたいと思うけど。

 僕は会話をチームモードにする。

「どう?入れてあげても、いいんじゃないかな」

「キョウがいいなら」

 会話を通常モードに戻す。

「わかりました。よろしくお願いします」

「……いいんですか?」

「はい、断る理由はありませんよ」

 僕は、自然と笑顔を作っていた。自分の部屋でゲーム機に笑いかけても、なんの意味もないのに。

「やったー!」

 ユニコーンはその場をぐるぐると回りだした。どうやら喜んでいるようだ。僕らのチーム入っただけで、こんなにも喜んでもらえるのが嬉しかった。

「私、アヤっていいます!」

 確かに、ユニコーンのプレイヤー名はAYAになっていた。

「グリフォンのキョウです」

「人面魚のタカです、よろしくお願いします」

 お互いの自己紹介を終えると、僕は早速エンブレムをユニコーンに手渡した。アヤはエンブレムを左前足の付け根へつけた。

 これで、ドラゴンバスターに新しいメンバーが加わったことになる。ずっとタカと二人だと思っていた僕には、感慨かんがいもひとしおだった。

 それから、街まで三体で戻った。街まで、いろいろなことを話しながら帰った。ほとんど、アヤがしゃべっていたが。

 ずっとドラゴンバスターに憧れていたこと、ユニコーンのレベルが二十二であること、もっと強くなりたいこと。

 街に着き、クエストを終了させた。僕らはこれからの予定を変更し、アヤと一緒にレベルを上げることにした。

 僕らは戦闘をしながらも、話し続けていた。僕も独眼龍に憧れていて、いつかは戦いたいことを話した。タカは近いうちに進化アイテムを取りに行こうと思ってると。

 ただモンスターと戦闘することが、これほど楽しく感じたことはなかった。

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