俺と彼女たちは桃太郎と家来なはず・・・
七乃瀬 雪将
第一部「旅立ち」
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
「うむ……」
「そうね」
おじいさん(
あるとき、おじいさんは山へコーヒー豆の採取に、おばあさんは隣町に住む新人漫画家の原稿を回収に行きました。
おばあさんが漫画家に催促、と言いますか、超絶恐ろしい圧力をかけに行った帰り道、川沿いを歩いていると、川の上流から何やら大きな桃が流れてきます。
どんぶらこっこ~どんぶらこ~
おばあさんはそれを拾って家に持ち帰り、おじいさんに見せました。
「うっむ……」
「そうね。桜井農園のブランド桃『
「さぁ……!」
「待ってて。今切るから」
おばあさんはそう言って、持っていたボールペンを胸ポケットから取り出し、桃から約二メートルほど離れます。そして、ものすごい速さで上から下に向けて、ボールペンで弧を描きます。すると、桃はぱっくり割れ、中から子供が出てきました。
ブルブルブル……
子供は震えていたそうな。まだ赤ん坊でしたが、すでに意識があるのか、自身に及びかけた身の危険を自覚していたのでしょう。
「あら、可愛い」
「あぁ……」
「それはいい考えね」
おばあさんは変わらず抑揚のない淡々とした口調で話します。おじいさんもそれに対して、
「本当にその通りだね、おばあさん。どうだろうか、うちは子宝に恵まれなかったから、この子を我が家で引き取って、育てるというのは……。きっと、素直でいい子に育ってくれると思うんだ。私はこう見えて結構子供が好きでねぇ。子育てに憧れの気持ちを抱いているんだ。おばあさんと二人の生活も幸せだが、子供がいるともっと楽しく暮らせると思うよ」
と提案し、おばあさんはそれに承諾しました。
こうして、おじいさんとおばあさんの間に引き取られた赤ん坊は、二人によって『桃太郎』と名付けられ、便宜的に『
悩みがあるとすれば、二十歳になっても顔つきが幼いままということです。渋い顔つきのおじいさんを羨ましく思うこともしばしばとか。
まだ悩みがあるとすれば、育ての親であるおじいさんの言っていることが分からない時があるということです。言葉足らず過ぎて理解できないこともしばしば。
更に悩みがあるとすれば、おばあさんがとても怖いということです。小さい頃には、悪さをする度に西の都で伝説となっている雷神様も仰天するほどの雷が、おばあさんによって落とされたこともしばしばあったそうな。
そして、更に悩みがあるとすれば……
「翔平。あんた、まだ就活を始めていないの?」
「は、はい……」
大人の仲間入りを果たしたにも関わらず、就職先の見当を付けていないことでした。
「でもおばあさん! まだあと半年以上あるし、何とかそれまでには!」
「半年なんてあっという間に過ぎる。そんなに悠長に考えていていいと思っているのか? インターンも行ってないそうだな。今まで一体、何をしていたんだ?」
「そ、それは……」
翔平はおばあさんの凄みに負けて何も言い返せません。おばあさんは、本当に怒っている時に口調が変化します。なので、普段は淡々とした喋り方ですが、本当に怒っている時は判別できるのです。そして、今はまさに怒りの頂点に達しているということを翔平は理解していました。
「しょうがない奴だ。それなら、お前にあることを命じる」
「あること、ですか?」
「そうだ。最近、都で物品がなくなるという事件が発生している。その犯人は、おそらく鬼ヶ島に住む鬼とのことだ。お前には、そこへ行って鬼を粛清してもらう」
「え!? それと就活に何の関係があるんですか!?」
「インターンだ」
「いやいやいや! 鬼ヶ島に就職とかしませんから!」
「鬼を倒せば、就活に有利になる」
「絶対うそだ!」
「行け」
「……はい」
おばあさんの命令に逆らえず、翔平は鬼ヶ島に行くことになりました。おばあさんは横暴だ! 鬼ヶ島の鬼よりもよっぽど鬼らしいっての! そう思ったことは、おばあさんには内緒です。
翔平は、内心でおばあさんに『血も涙もない鬼』と二つ名を付け、旅に出たのでした。旅に出る直前、おじいさんがおそらくは激励のために来てくれたのでしょうが、翔平には「ふっ……」としか聞こえませんでした。
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