あらしのよるに

みずかん

あらしのよるに

ビュウウウ、ビュウウウという轟音と共に雨が吹き込む。

木の葉が大きく風に乱される。

平穏なジャパリパークは疾風怒濤の渦に飲み込まれていた。

屋根が無い図書館にとっては大きな痛手である。なんとか降り始めた頃に出来る限りを避難させたが、この島の長である

博士もこんな天気に見舞われることは生まれて初めての事であった。


雨に濡れない、“倉庫”という所があったのが幸いだった。そこで、ある人物と共に雨が過ぎるのを待っていた。


「...どうやら、“台風”というらしいですね。サンドスターで気候が管理されてると言っても、外からやってくる物については影響を受けてしまうのですね」


「こんな天気は初めてだよ」


彼女は本を読みながら、他人事の様に言った。彼女は、タイリクオオカミ。

博士とは付き合いがあり、漫画を見せに来ていた。音もなく唐突にやって来た

台風は彼女を足止めしていた。


「助手は大丈夫ですかねぇ...」


助手はもうすぐこのパークで開催される“ふぇすてぃばる”の準備で出掛けていた。タイリクオオカミが来るのを知っていたので、博士を残し、一人で出掛けたのだった。

博士自身、助手がしっかりしているのは

知っていたが、予想外の大荒れの天気に

参っているのではと、身を案じていた。


「助手もバカじゃないんだし、どっかで雨宿りしてるさ」


タイリクオオカミは客観的にそう話した。


「だといいのですがね…」


重い溜め息を付いた。


倉庫の中には電気式のランプがあった。

賢い博士の知恵と、オオカミの発想力の

ファインプレーで同じ場所にあった乾電池を入れ、明かりを確保した。

部屋全体が明るくなる程の光源では無いが、有るのと無いのでは大きく違う。


二人は黙っていた。


それだけに地上から雨と風の音が目立って聞こえる。


「...何か話しませんか?」


その騒音に耐えきれなくなり、そう持ちかけた。


「話?怖い話かい...?」


「こんな時にそんな話をするなです。

冗談も大概にしてくださいよ...」


「うーん、でもなぁ。何かネタあるかなぁ...」


タイリクオオカミは持ち合わせていたペンを回しながら、考える素振りを見せた。


「はぁ...。肝心な時に限ってネタが無いとは...。困ったものなのです」


呆れ顔を見せた。


「そうだ。恋バナでもするか?」


彼女はそう提案してきた。


「何ですか。それは?どんな花ですか」


「そっちのじゃなくて、話の方だよ…。要は好きな人について話そうって事だよ」


博士は眉をひそめた。


「は、はい...?す、好きな人?」


「なんだ、嫌なのか。なら、怖い話でも...」


「い、いえ...、それだけはやめて欲しいのです」


タイリクオオカミは満足気な顔を浮かべた。


「なら、決まりだね。じゃあ、私から話そうか」


仕方なく、博士は木の箱の上に座った。

オオカミは目を閉じ、その姿を思い浮かべるが如く、その喋り慣れたその口で

話し始めた。


「彼女は...、私の事を良くわかってくれてる。支えてくれてるって言ってもいいかな...。私が思い付かない事を

思い付いてみせる。青天の霹靂の使者

って言っても過言じゃない。

時々、何言ってるのか分からない事もあるけど、まあそれはそれで楽しいし、

彼女も根は真面目で色々頑張ってくれてるから、私は好きだな」


博士は黙って聞いていたが、

誰の事を指しているのか1発でわかった。

人を言葉で形容するのは、難しそうな事だが、ここは長としてのプライドもある。オオカミの様に、上手く表現しなければ。


「そうですね...、まあ、彼女の事は私も尊敬しているのです。私も同じく支えて貰ってますね。彼女が居なければ、島の長としての私は、今頃居ないでしょう。彼女と出会えて知った事もありますし、感謝しても感謝しきれないのです。そうやって、毎日私に尽くしてくれるところが好きですかね…」


言葉を絞り出して、そう話した。


「ふふっ...」


オオカミは不意にそう笑った。

何処と無く不気味な雰囲気がした。


「ど、どうしたのです」


その笑いが気になり、すぐ様尋ね返した。


「初々しいなと思ってさ。

博士の性格上、素直にイチャイチャしてないでしょ?」


ペンを自分の方に向けられた。


「...人の事言えるのですか?」


そう言い返すと一瞬難しそうな顔をした。


「私は一旦漫画を描き終えたら...、

イチャつくぐらいするさ」


虚勢を張っているのか、本当にそうなのか。なんせ彼女の口から言う言葉は漫画のストーリー以外信用ならない。


「本当に...?」


「本当だよ…」


博士は彼女の目を、宝石に傷が無いか確かめる様に見た。


「見栄を張らなくてもいいのですよ。

いいじゃないですか。他人と同じだって」


「...この私を疑うのかい?」


不服そうな顔をした。


「マンガの内容以外は鵜呑みに出来ないのです」


正直にそう言った。

すると、彼女は顎に手を当てた。

何かを地中から引っ張り出そうとしてるようでもある。


「じゃあ、私が彼女にしている事をすれば信じてくれるかい?」


「え?」


思わず耳を疑った。


「言葉通りさ。マンガの内容以外信用出来ないんだろ?だから、証拠を持ち出して証明しようって言ってるんじゃないか」


返答に悩んだ。

イエスかノーで答えるべきなのだろうが...。何か関わってはいけない、

足を踏み入れてはいけない地雷原に誤って入ってしまった時のような緊張感に襲われた。


「いや...、そこまでしなくても...」


小さな声でそう言うが雨音で掻き消されてしまった。

タイリクオオカミは黙って、こちらを見つめる。

クイズの正解を早く答えて欲しい、出題者の様だ。

いつの間にか沈黙が生まれていた。

雨音は一層強まる。

騒がしい都会の雑踏みたく、地に強く叩きつける。


そして、時を告げる鐘の音の様な音が

大きく響き渡った。


ゴオォォォン


雷の落ちる音がした。

刹那の出来事に博士は一瞬身体を震わせた。


洞察力に優れた作家はその一瞬の描写を見逃さなかった。


「いい顔頂き」


そう言い放つと、

更に博士はドキッとした。

咄嗟に出る言葉が、見つからない。


「雷が怖いの?」


彼女の目はどこか面白い玩具を見つけた子供の様に純粋さを増していた。


「い、いや、そんな!」


ゴオォォォン


また、けたたましい音が地下まで響いた。神様が嘘は良くないと咎める様であり、思わず博士は心中で舌打ちした。


「怖いなら...、怖いって言いなよ。

見栄を張らなくてもいいじゃないか」


先程、自分が言ったことをそのまま返され、傷口に塩を塗られた。


「...来なよ」


彼女は両手を広げた。


「...」


ゴオォォォン


勝敗はオオカミに上がった。


その音が轟いた瞬間、博士はオオカミに抱き着いた。


「臆病な所あるんだね…、意外だよ」


博士は何も言わず、服をギュッと握っていた。


「さっきの話の続き...」


「信じるのです...」


そう耳元で囁いた。


「...確かに、私は...、助手とイチャ付いた事はないのです。あなたは...、あるんですよね」


「博士は...、自分に素直になれないのかい?」


その問に対して考えた。


「素直になれないというか...

よく、わからないのです。

その...、関わり合いとか...」


「単純な事さ...」


彼女は一度、私をゆっくり身体から引き離すと顔を見た。


何故か私は彼女の顔を見た瞬間、

ドキリと、心臓を突き動かされた。

助手には無い...、強い衝撃。


そのまま、見えぬ何かに引っ張られる様に、彼女とキスをした。


博士の辞書に適切な言葉は記載されていなかった。


「言葉は要らないんだ。考える必要も無い」


私は確信した。

今、私は間違い無く、

“彼女に惚れている”


“ホントの愛”というものを

初めて気付かせてくれたんだ。


助手に対する気持ちは...、限定的な枠の中の物だったのかもしれない。


「ふふっ、いい顔」


彼女は微笑んだ。


虚勢を張っていたのは、私の方だった。

ホントは誰かに、甘えたくて...

助手に対して私はそう言った感情を押し殺して来た。

それは、長としての面子を保つ為か、

はたまた助手をその“対象”として、見ていなかったのか。

理由はわからない。


ゴオォォォン


遠くの方で雷が鳴った。

雨足も最高潮に達している。


オオカミは博士の耳をそっと両手を塞いだ。


「...怖がらないで、守ってあげるから」


「タイリクオオカミ...」


力なくそう呟いた。

彼女は私を膝の上に置いたまま、じっと、見つめる。

品定めをする目利きの目だ。


「ここじゃ...、狭すぎる」


私は黙って、床に座った。

タイリクオオカミは、暑苦しそうなその

ネクタイを緩め始めた。


「いつも...、こんなことを...?」


「偶にさ。作家も“息が詰まる”のさ」


プライドや、面子が海辺の砂城の様に崩れ去る。

この人になら、食われようが、殺されようが、構わない。

心の内から私の身包みを剥がして行った。


「...どうしてほしい?

博士の意見を尊重するよ...」


「...もみくちゃにしてほしいのです」


自分から、強い敵を狩りには行かない。

野生とは、そういう物だ。

強い者が弱い者を喰らう。自然の摂理とはそういう事だ。


再度、紅潮した私の顔に口付けをした。

雨の音は認識の範囲から除外されていた。


彼女はゆっくりと、手馴れた様に服の留め具を外す。

そして、生身の身体を晒した。


「綺麗な身体してるじゃないか...」


「食べちゃ...、ダメなのですよ?」


「キミはかばんかい?」


ふふっ、と笑った。

話術が上手い。このパークで話のうまさで右に出る者は居ないだろう。


「でもね...、やっぱり、血が騒ぐんだよね。こういうの見ると...」


彼女は私の身体に顔を近付けた。


何とも言えない、生暖かい感触が腹部から伝わる。


「...はぁ」


舌で舐められる。

思わず息が零れた。


ゆっくりゆっくり、土壁を塗り固める様に上と舐めていく。


「ハカセ...」


彼女が私の小さめの胸を舐め始める。

とんでもない、快感。

そして、興奮が私を襲う。


「...あっ...もっと...、なめて...、

ほしいの...、れす...、はぁ...」


はぁはぁと、短い間隔の息が自然と出る。


「かわいいね...」


そう呟く彼女の言葉が余計に私を興奮させた。このまま、燃え尽きそうなくらい、顔が熱い。

それが熱伝導したのか。彼女も、顔を赤らめている。


「あはは...、ごめんね、ハカセ。

こんなにベトベトにしちゃったよ…」


「そんなの...いいですよ...

もっと...」


私がそう強請ると、彼女はもう一枚服を脱いだ。


「もう、ここまで来たなら...、いいか」


全身の服を脱ぎ捨てる。

私の下着も彼女が脱がせた。

単純な事だがわけがわからない。

私はずっと床に仰向けになりながら夢でも見ている感覚だった。


「こんなベトベトに汚れた長...

誰も見た事ないよ…」


彼女の一言一句が耳に入る度、胸が高鳴る。彼女の語り口が好きだ。


「もっと喋って...、欲しいのです...」


彼女は微笑む。


「しょうがないな」


そっと、本来の野生の姿になった彼女は

そのまま私の身体に覆いかぶさる。

私の物より一回り大きな柔らかい胸が

私の身体に当たる。


「はぁ...、あっ...、きもちぃ...、

です...」


彼女は身体を密着させ、また私の胸を赤子の如く舐め続ける。


「ハ...、ハカセ...、気持ちいいかい...?」


「こんなの...、はじめてなのれす...

はぁ...、キリンのヤツが...、羨ましい...」


「でも...、キリンはこんないい顔してくれないよ…。ハカセのは最高だ...」


他人に花を持たせる。

これもテクニックの一つなのだろう。


「じゃあ...、もっと良い顔を...、私に見せてくれ...」


身体を離し彼女は、繊細なその指先で私の秘部を触る。


「あっ...はあっ...」


何でこんなにも、気持ちが良いのか。

何故今まで私はこんな事を忌避してきたのか。今まで、自分が作り上げてきた立派な城壁が無駄で馬鹿馬鹿しく感じた。


「いいね...、いい顔だよ」


「うれしぃ...の...、です...」


「そうか...、もっと嬉しくさせてやろう」


微笑みながら、

二本の指を“中”へと挿入する。

その温もりはすぐに快感へと変わる。


「あっ...はぅ...ひもちぃ...れすぅ...あぁ...はぁ...」


「大丈夫...?、限界まで行ってあげようか...?」


私は初めてだった。やり方すらも知らない。だけど、一人先を走るのは...


「はぁ...、待つの...、です...

一緒が...、いいのです...」


「わかった...。今度はハカセの番だ。わかっただろう...?接し方は...」


助手なんて、今の自分にはどうでもいい存在だった。長く居るだけで相思相愛になるとは限らない。

今の私は、目の前にいる、怪しげな目をした彼女の事が好きだ。


「さあ...、おいで...」


「島の長を...、汚したのは...

重い罪ですよ...」


冗談を呟き、自分の舌と手でで彼女の

目立つ大きい胸を弄る。

彼女の胸ほど柔らかい物は触ったことが無い。助手の物を一度触った事はあるが、私のと殆ど、紙一重と言っても良い程、変わりが無かった。


「あぁっ...、下もやってくれよ…」


その要求に従う。

彼女がした様に、私も二本の指で触る。

透明な液で彼女もまたベトベトになっていた。


「ハァ...上手いね...」


こんな状況下においても、彼女は冷静さを欠かなかった。


「どう...、ですか...」


「気持ちいいよ....」


吐息を洩らしながら優しくそう答えた。

私も、そっと、そっと、タイミングを

見計らいつつ、指を挿入する。


「ハァッ...、ハァー...」


盛の野犬の様な息遣いをする。

もしかしたら、彼女はこの姿になる前は、オスだったのかもしれない。

でも、今はそんなのどうでもいい。

解決への推測は、幻想を吹き飛ばすダイナマイトにしかならない。


私は彼女がやり続けたように、執着にその胸と秘部を弄り続けた。


「あぁ...はぁ...かせ...、だいて...あげるよ...」


黙って、私はタイリクオオカミに抱き着いた。横に向きを変え、足をお互いに絡め合う。


「いい顔をしてる...、ハカセはかわいいなぁ...」


彼女の左手は私の胸を触っていた。


「...すき...なの...えす...」


「私も...」


私も彼女の胸を触っていた。

次第に私達は、お互いの、胸同士を突合せた。


「あはぁ...、んっ...、はぁ...」


「ハァ...、ハァッ...」


「いっしょに...」


「いいよ....」


私達は身体を一つにし、そして...

身体の中から全ての溜め込んでいた物を解放させた。


「はぁー...、はぁ...」


息を乱す私に、彼女はもう一度口付けした。


私達二人は、力を使い切り、抱き合いながら、深い眠りに付いた。

その時既に、雨音は消え去っていた。
























朝目覚めて、気付くと布が掛けられていた。


(あれ...、こんなのありましたっけ…)


私は直ぐに自身が何も着ていないことに気が付き、服を探した。


服は木箱の上に置かれていたが、

綺麗に畳まれている。


何か大きな違和感を感じた。


タイリクオオカミも起こした。


起きると黙々と服を着た。


「...、昨日の事は、内緒にね」


私はそっと肯いた。


タイリクオオカミと共に倉庫から出ると空はいつも通りの平穏な空に戻っていた。


「じゃあ...、また来るよ」


そう言い残して、彼女は歩いて図書館を出た。


私はハァーと、大きな息を吐いた。

昨日のあの一連の出来事が、夢の様であったからだ。


そういえば、助手はまだ帰ってきてないのだろうか。


下の濡れた床を見て少し考えてると、


「あっ、博士。おはようございます」


その声で前を向くと助手がいた。


「本...、整理しておきますね」


その一言を残しすぐ様後ろを向き、私の目の前で本を棚に戻し始めた。


私はその後ろ姿から目を離すことが出来なかった。


何故なら、助手は本を持っていない下に降ろした右手を握り“ぷるぷると震わせていた”からだ。


私は、その時、初めて経験する形容出来ない気持ちに襲われた。


(あの助手が持っている本の箱は...)


脳裏に、昨日の嵐の夜がフラッシュバックした。


台風一過の空の下、太陽は皮肉にも新た

な門出を祝福しているかのように、サンサンと輝いていた。

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