第120話 瑛星学園来校

その校舎は、陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

だがしかし、校庭はそんな校舎の輝きを吹き飛ばすような異様な熱気に包まれていた。


「山宮学園の皆さまのご到着である!!」


それを聞くや否や、四方八方からブーイングが飛ぶ。

校庭に入ってくる4台の大型バスには、早くもビンやらカンやらが投げつけられている。本来なら教師たちがそれを収めなければならないのだろうが、あろうことか教師の何人かはカンの投げ合いに参戦しているではないか。


「くたばれ山宮!!」


「これ以上支援金を持って行くんじゃねえよ!! 瑛星に全然支援が来ねえじゃねえか!!」


「生徒の引き抜きが酷すぎるぞ!! パワーバランスが崩壊してるだろ!!」


「チクショー、俺を試験に落としやがって!! 山宮は大嫌いだ!!」


一部、明らかな私怨も混じってるが、それでも山宮学園への罵詈雑言は止まない。

スモックガラスでバスの内部は見えないが、瑛星学園からの熱烈な歓迎にバス内の山宮学園生はさぞ怯えているに違いない。


「さあ降りてこい! 山宮のクソどもめ!」


そんな中、スピーカー片手に瑛星学園生の中央に立つ男が一人。

鉢巻を巻き、絵に描いたような熱血漢という様相の男子生徒だ。


「俺は瑛星学園、生徒会長の久崎くざきえんだ!!」


大きな瑛星学園旗を抱えて盛大に威嚇するように、彼は旗を振っている。


「かつて俺は山宮学園を受験しそして落ちた! だが、今思えば俺は幸運だった!」


そんな声と共に、一団からは歓声が巻き起こる。

余り声を大にしては言わないが、瑛星学園は山宮学園の滑り止め受験校として非常にポピュラーだ。暗黙の了解として、彼らの大多数は山宮を受験していた。


「血の通わないロボットのようなお前らと違い、俺はこの学校で多くの友を得た!!」


「そうだ!!」と大きな声で鼓舞するような声が上がる。

山宮学園の超実力主義は非常に有名だ。それもあって一部では「行き過ぎた指導」とか「生徒を人として扱わない学校」などと言われる悪名も多い。


「俺たちの友情パワーは誰にも負けない! かかってこい山宮!!」


大地を震わせる歓声と、燃え上がるような熱気が瑛星学園側から巻き上がる。

バスからは誰一人として人は降りてこない。恐らく委縮したのだろうと彼らは思う。


「どうした腰抜けめ!! 俺たちに怯えて出てこられないのか!!」


ピーピーと、煽るような口笛も聞こえてくる。

瑛星学園の敵意と士気はマックスだ。最早顔を合わせる前から戦争状態である。


しかし、ここでテレパシーを通じて声が聞こえて来た。


『あのお⋯⋯僕、目黒俊彦っていいます』


「目黒⋯!? あの魔眼使いか!!」


テレパシーを通じて瑛星学園側と話し始めたのは俊彦だ。


『えっと、新しく来た新任の先生が怒ってて⋯⋯』


「だから何だ? だったら力づくで俺達を止めて見ればいいだろう!!」


話し合いには応じないぞとばかりに、血気盛んな様子の炎。

対して俊彦は明らかに何かに対して怯えている様子だ。


『ええ⋯⋯そんなことしたらあの人たち倒れちゃいますよお』


『いいからやれ。生温い波動と違い、私は調子に乗ったクズには容赦せん。あそこにいる奴らは、お前が纏めて掃除して来い』


「そんなあ⋯⋯」と俊彦の呟きが聞こえてくる。


『あのお⋯⋯魔眼を使いたくないんです。だから、静かにしていただいて⋯⋯』


「ハッハッハ!! 怖気づいたか、山宮!!」


するとここで、突然生徒会長の炎の前にこれまた暑苦しい様子の男が現れた。


それがしは、瑛星学園長の久崎くざき炎弐えんじ!! ここで会ったが百年目、前回の貴様らの蛮行は忘れておらんぞ!! 我らの大切な生徒たちを何人も痛めつけおって!!」


横の炎から旗をひったくると、これまた彼以上の勢いで炎弐は旗を振る。


「加えて、我らが引き抜きを画策した有望な生徒たちを根こそぎ奪った貴様らには天誅を下さねばならん!! さあ降りてこい山宮の一年生たちよ!! 今年こそ我らの怒りの鉄槌を浴びせて、白目を剥かせて⋯⋯!!」


と言った、次の瞬間だった。


『もういい。お前が出来ぬなら、私がやる』


その瞬間、パチンという指を鳴らす音が聞こえて来た。

そしてその音と同時に、それは起きた。


「あひやああああああッッ!!??」


とんでもない勢いで、旗を振っていた炎弐が後ろに吹き飛ぶと、校舎裏に隠すようにして置いてあった豚小屋に頭から垂直落下した。


『目障りなブタめ。大人しくしているがいい』


そしてバスから降りてくる人影が一人。


「アイツは⋯⋯まさか!!」


そんな中、後ろに控える教員の一人が目を見開いてそう呟く。

バスから降りてきたのは、見るものすべてを凍り付かせるような、蛇を思わせるような冷徹な目を持つ男だった。


「お初にお目にかかる。私の名は八神国吉、レベル5クラス担任だ」


「レベル5クラス担任⋯⋯? 確か波動だったはずじゃ⋯⋯」


しかし、その男八神はそんな声には耳を貸さずに口を開く。


「ところで、先程までの威勢はどうした? やけに静かではないか」


気が付いた時、瑛星学園一同は磔にかかったように何も口に出せなくなっていた。

それどころか体も動かない。異能ではなく、ただ単純に目の前にいる男に対する圧倒的なまでの恐怖。余計なことをすれば痛い目を見る、という本能的危機察知。


するとここで八神は、一瞬後ろを向くと小さく言う。


「降りてこいお前たち」


そしてそれを合図に、バスから降り立つ生徒たち。

山宮学園レベル5クラス。全国の一年生世代では最強に属する集団だ。


「こ、皇帝、光城雅樹だ⋯⋯!!」


「仁王子デカすぎるだろ! 青銅の騎士を使う肉弾戦最強の一年生⋯⋯!」


後ろからは早くもざわめきが起きている。

さらに同世代のみならず、上級生であるはずの2、3年生まで彼らの気迫に気圧されている。何せ目の前に居るのは、黄金世代と呼ばれる面子の最高峰なのだ。


「あの人は榊原摩耶だ! エグイ魔力の波動がここまで伝わってくる⋯⋯!」


「櫟原に念動力の千宮司、それに魔眼使いの目黒⋯⋯!! ヤバすぎるって!!」


そんなざわめきの中、後ろからは更に他クラスの生徒たちも次々に降りてくる。

だが後ろのメンツを見て、さらにざわめきは大きくなる。何しろ後ろに控えている人たちもまた、各地元では1、2を争うほどの超実力者なのだ。


そしてバスからは、教員の大吹、大道、マコの三人もやって来る。


「久々の瑛星学園訪問。ご指導ご鞭撻お願いしますねえ」


にこやかにそう言う大吹だが、瑛星学園側はもう借りてきた猫状態だ。

一年生とは思えない実力が、彼らから発される魔力とオーラでバチバチに伝わってくる。全生徒、全教員がそれを感じ取ったがゆえに完全に絶句していた。


そして、瑛星学園生徒会長の久崎炎はというと⋯⋯


「お、覚えてろよ山宮!! いつかお前たちをギャフンと言わせてやるからな!!」


テンプレの様な捨て台詞を残して、スタコラと逃げ去っていった。





なお、瑛星学園一同が完全に山宮の精鋭たちのオーラに気圧されていた時。


大型バスに隠れるようにして、今にもエンストしそうなオンボロマイクロバスが校庭に侵入していたのだが、残念ながら誰にも気付かれなかった。

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