第67話 消失と爆発
「直人君! 大丈夫かい!?」
「⋯⋯ああ」
コーヒーを浴びせられた手は、ヒリヒリと痛む。
もしかしたら水ぶくれができるかもしれないと直人は思った。
(俺の商売道具に何てことしてくれるんだよ⋯⋯)
この程度なら、後でマキに頼めばすぐに治るだろう。
だが、それで一時的な処理をすることが事の本質を解決するものではないことも分かっていた。
「直人君、僕が氷を作るからそれで手を冷やそう」
すると雅樹は空中で軽く手を振った。
一瞬だけ部屋の空気の気温が下がる。そして雅樹が手を振った辺りに小さな氷の結晶のようなものがポツポツと現れると、結晶がみるみる大きくなっていく。
数秒もすると、5つほどの大きな氷の塊が空中に浮かんでいた。
雅樹はラウンジにある机の引き出しからポリ袋を取り出す。
そして氷と同じ要領で空中から水を精製すると、ポリ袋に水と氷を入れた。
「これを患部に当てておけば、これ以上悪化はしないと思う」
そう言って直人に氷水が入ったポリ袋を渡す雅樹。
直人は黙ってそれを受け取ると、右手にあてた。
「勿体ないけど、コーヒーも処理しよう」
雅樹はパチンと指を鳴らす。
すると床に撒かれたコーヒーが一瞬で蒸発し、コーヒーの粉末のようなものが後に残った。そして雅樹は粉末を空中に浮かせると、まとめてゴミ箱に入れる。
「⋯⋯⋯」
それを見て絶句するのはレベル1クラスの三人。
さも当たり前のようにやっているが、雅樹が使った今の異能は超絶技巧のオンパレードだ。水と氷の同時精製に、水の沸騰は熱エネルギーと水の融合。そして微細な物体を力学エネルギーで捉え、かつ一粒も残らず浮かす異能の精度はもはや超人芸だ。
「⋯⋯俺、水を操るのが得意って言うのやめようかな」
そんなことを呟く新。
今の一連の行動を新が出来るかと聞かれれば、それは疑う余地もなくNOだった。
無論本来高校生に出来る代物ではないため要求されること自体酷な話なのだが、それが何の慰めにもならないことは新自身が良く分かっている。
すると雅樹は直人の方を向く。
見るからに「申し訳ない」という様子だ。その心には謝罪の念があるのだろう。
「直人君⋯⋯」
そんなことを、雅樹が言いかけたその時だった。
「時間です。皆さん、部屋の中に入ってください」
全く気配を感じさせず、彼らの後ろから声がした。
全員が振り返った先には、眼鏡を掛けた少女がいる。
「団長も一般生代表の方もお待ちです。早急にお願いします」
そこにいるのは元木桃子だった。
修也と同様に腕に腕章を付け、いつも通りにきっちりと制服で身を固めている。
「⋯⋯分かりました。よし、皆行こう」
直人に何か言いかけた雅樹だったが、桃子の声に前を向く雅樹。
チラリと直人の方だけ見て、雅樹は生徒会室の中へと歩き出した。
「では、私達も行きましょうか」
「あ、ああ⋯⋯」
何か雅樹に言いたげな様子の新だが、後ろから真理子に急かされて部屋に入る。
その後に続いて俊彦、修太、そして最後に直人の順に部屋に入った。
前回来た時と違って、今回の部屋の雰囲気はかなり厳格だ。
部屋の奥に並ぶようにして三つの大きな机が置かれ、そこには三年生の団長八重樫慶に、副団長の星野アンナ、そして広報委員長の志納玄聖がいた。
更にその横には海野修也と元木桃子の一回り小さな机もある。
その真ん中には空席の机も置いてあった。
「生徒会新団員と、その代理補佐の方はこちらの椅子に座ってもらいます」
そして桃子は生徒会団員たちに向かい合うようにして置かれている、アンティーク調の椅子を指差す。雅樹と直人、俊彦に凛と四人分が並んでいた。
そしてその椅子の一つには既に凜が座っている。
「レベル1クラスの方はこちらへどうぞ」
そんな中、部屋の片隅に置いてある三つのパイプ椅子。
あからさま過ぎる待遇の違いに新と修太の表情が曇るが、それを半ば予期していたかのように真理子は椅子に座った。
そしてそれをフンと鼻を鳴らして見つめるのは志納玄聖だ。
どうやらこれをやったのは彼らしい。
「光城様、生徒連合団への入団おめでとうございます!!」
そんな中、部屋中に響き渡る声。
見ると生徒会団員と、雅樹たちの間に立つようにして一人の男の姿があった。
まるで駆け寄るようにしてその男は雅樹の元へと向かう。
「申し遅れました。私は
種石快、恐らく今回の一般生代表だろう。
種石重工は日本でも十指に入る大企業で、鉄鋼界の雄とも称される。
その御曹司となれば、相当なステータスの持ち主のはずだ。
だが直人らの前情報では彼は二年生だったはずだが、まるで一年生の雅樹の僕のようにヘコへコと頭を下げている。
「光城様、是非今後御機会ありましたら我が家の別荘へ御招待させて頂きたく思います! 父も光城様とお話しさせていただきたいと申しておりました!」
「そ、そうですか⋯⋯」
相手の熱量に気圧されるように、雅樹は頷く。
この時点で直人は感じ取っていた。種石重工の御曹司である快と、雅樹の間に存在する絶対的なステータスの格差。そして媚びへつらう様な快の態度の理由を。
(成程。要は光城家の事実上の傘下ということか⋯⋯)
光城家は、ありとあらゆる業界に絶大な影響力がある。
当然ながら鉄鋼業もその影響下に存在し、光城家と懇意な間柄であるという理由だけで同業界では既に勝利を約束されたと言っても過言ではない。
きっと種石重工もその法則に漏れることなく『勝ち組』になったのだろう。
すると今度は、凛にも軽く礼をする快。
榊原家は光城家と敵対関係にあるが、その分家に位置する凜も影響力の強い重要な立ち位置にいる人間の一人だ。それに対する敬意の表れだろう。
「種石快。まずは座ってもらおうか」
すると直人らと同じアンティークの椅子が突然部屋の中央に現れる。
その声の主は団長の八重樫慶だった。
「ビジネスも結構だが、今日は親睦を深める意味も兼ねた話し合いの場だ」
そういう八重樫を見る快の表情はいま一つ読めない。
むしろ、ほんの少しだけ不満を感じさせるようなアルカイックスマイルを浮かべていたが、「そうですか」とだけ言うと椅子に座った。
「本来なら欠員なくこの日を迎えたかったが、特殊な事情が重なったため今回は少々コンパクトな話し合いとなる。しかし、それでも実りある時間にしてもらいたい」
そう言って八重樫は部屋全体を見回す。
だがしかし、ここで快が立ち上がった。
「まずは団長、親睦を深める前に処理しておくべき話題があるでしょう」
不敵な表情を浮かべる快は、一人の人物に目を向けた。
「何故、この場にあのような人間を置いておく理由があるのですか? 慧眼をお持ちの団長にしては理解しかねる行動です」
うんうん、と首を大きく縦に振るのは凜。
快の視線の先には直人がいた。
「そして隅にいる三人。いくら団長が一般家庭の出身と言えど、才無き人間を過度に重用するような行動は止めて頂けないでしょうか?」
「お、おい! 才無き人間って、勝手に決めつけんなよ!!」
そう言って立ち上がりかける新。
だがそれを修太と真理子が二人係りで止めた。
何故止めるんだとばかりに二人を見る新だったが、その理由をすぐに新は知ることになる。
「神聖な話し合いの場だ。次、余計なことを喚けばどうなるか分かるか?」
低い男の声。
何時の間に、新の横にはナイフを持った玄聖が立っていた。
「黙って座っていろ。次に許可なく動けば、貴様の舌を切り落とす」
目を見れば分かる。玄聖は本気だ。
ゆっくりと椅子に座る新。彼の膝はカクカクと震えている。
「俺は何の意味も無く人を重用するような愚か者ではないつもりだがな。彼が今の山宮学園をより良くするための重要なマスターピースになると判断しただけだ」
「中村健吾のことでしょうか? 確かに合宿では彼の救助行動が光城様と榊原様の御命を救ったと聞いています。しかし、私は彼に同伴していた海野の話も聞いてみたいですね」
八重樫の言葉にそう言い返す快。
すると快は、今度は修也に視線を向ける。
「本当のところはどうなのです? 合宿では全体でも最下位の個人成績だった中村健吾が、DBも多くいたであろう戦場にて何の貢献が出来るのでしょうか?」
快の視線が細められる。
その視線の先に居るのは修也だ。
「正直に言いなさい、海野。実際は団長が中村健吾を無理矢理生徒会に入れるために、このような嘘をでっち上げたのではないのですか?」
快の主張。つまり健吾は何もせずに祭り上げられたのではないかということだ。
だがそれを聞いて、ガタンと音を立てて立ち上がる人影が一つある。
「嘘だなんて、それこそ言いがかりです!! 健吾さんが海野先輩を連れて僕らを助けに来てくれたんです!! 確かにDBを倒したりはしてないかもしれないけど、健吾さんが動いてなかったら僕らはずっと外で倒れていたかもしれないんです!!」
いつもの倍以上の声量でそう言うのは俊彦だった。
だが許可なく動いた俊彦に、玄聖の強烈な視線が降り注ぐ。
「今年の一年は、人の言うことを理解出来んバカが多いようだな。レベル5だろうが、俺は容赦せんぞ!」
そう言って、ナイフをギラリと照明に反射させる玄聖。
しかし、俊彦はひるまなかった。
「何で皆、健吾さんにそんなに厳しいんですか!? 僕は、健吾さんなら団員としてきっと為すべきことを成して⋯⋯」
その時だった。
「何も分かってねえな!! オンボロ弱小貴族は黙ってろ!!」
ビクッと体を震わせる俊彦。
だが無理もない。予想外の所から声が飛んだからだ。
途轍もない声量で俊彦を罵ったのは、快だった。
先程までの柔和な態度は彼から消えている。
「為すべきことを成して、だと!? 寝ぼけたことを言ってくれるなよ、魔眼だけしか能のない弱小目黒家が! 俺達エリートが、オマエらみたいな没落貴族と同等に扱われるだけでも虫唾が走るんだよ!! それを、大した実力もないしかも一般人相手に頭を下げろだと!?」
アルカイックスマイルは消え、眉間に皺を寄せた醜悪な顔を見せる快。
それを見る俊彦は明らかに怯えている。
すると快は俊彦に詰め寄って言った。
「いいか、山宮は名家の『所有物』だ。お前ら貧民は、俺達に山宮を『貸し出されている』だけなんだよ。分かるか?目黒家」
すると凜も僅かに眉を吊り上げながらうんうんと頷く。
それを見る雅樹の顔は強張っている。
「生徒会は山宮の象徴。であれば、名家の所有物である山宮の生徒会に名家の人間、またはそれに準ずる人間が入るのは当然のこと。しかし八重樫団長、貴方が生徒会に入った辺りからなんですよ。生徒会が「おかしく」なって来たのは」
すると今度は、快の視線が八重樫に向く。
それと同時に快は星野アンナもチラリと見た。
「八重樫慶、星野アンナ。貴方たちは山宮でも稀有な一般家庭の生まれですね?」
ここで快は少しだけ間を置く。
そして言葉を続けた。
「しかしその次の世代に海野、元木、木野川という一般家庭生まれの三人が生徒会の席を独占した時点で私は確信しましたよ。八重樫団長、貴方は名家のカラーをこの生徒会から消し去ろうとしているのではないか、とね」
何も言わない八重樫。
チラリと八重樫を見るアンナからはいつもの笑みが消えている。
「その集大成が中村健吾なのでしょう? 一般家庭どころか、レベル1クラス出身の落ちこぼれという『劇薬』を生徒会に入れるという判断。八重樫団長、貴方は素晴らしい策士ですが、遂に策に溺れましたね」
勝ち誇ったようにそう言う快。
するとここで、突然生徒会室に大人数の男たちが入ってきた。
「種石、何のつもりだ」
冷静にそういうのは八重樫だ。
だが入ってくる男たちは、普通とは少々趣が異なっている。
「八重樫団長。貴方に一つ言っておきましょう」
そう言う種石はポケットから何かを取り出した。
鉄で出来た、黒光りする何かを見た俊彦は叫ぶ。
「け、拳銃!?」
カチャ、と銃を構える快。
その銃口は八重樫に向けられていた。
「調子に乗るなよ八重樫。団長と言われてどんなに持て囃されようと、お前も貧民であることは変わらない。俺たちの逆鱗に触れれば、ただでは済まないんだよ!」
立ち上がる修也と桃子。
二人は異能を使おうと右手を振り上げた。
だが⋯⋯
「お前ら。やれ」
その瞬間、部屋に入ってきた男たちが一斉に右手を振り上げた。
すると部屋に頭が痛くなるような超音波が発生した。
「⋯⋯⋯!?」
「異能が⋯⋯使えない!?」
その瞬間、立ち上がった直後までまるで蛇のように動いていた修也の鉄の鎖も、桃子の練り上げられた異能術も一瞬で消え去った。
「種石重工が開発した対異能用の
その瞬間、屈強な男二人が桃子と修也を取り押さえた。
それだけではない。ここに居る雅樹と凜、玄聖を除く全員の背後に、快が呼び寄せた屈強な男たちが立ちふさがった。
「私にこんな強硬なことをさせたのは、八重樫団長。貴方が山宮の暗黙の了解を破ったからですよ。そんなあなたに、ここで一つ言っておきましょうか」
ここで快は両手で大きくパンと叩いた。
すると空中に大きなビジョンが映し出される。
「貴方が自分自身を全知全能の神か何かだと思っているなら勘違いも甚だしいということですよ。山宮のあるべき姿、伝統の『名家による統治』を奪おうとする者には相応の制裁が与えられて然るべきだと、私の父も、他の名家の方も口々に仰っておりました。光城様の御父上だけは我々の意見に多少難色を示しておられるとのことですが、一先ずは静観して頂けるとのことで幸いです。」
それを聞いた雅樹の目が大きく見開かれる。
それはつまり、光城家は快の行動を半ば黙認したも同然だからだ。
「さて、そんな下級クラスが大好きな、貧民代表の八重樫団長に見て頂きたいものがあるのですよ」
そしてビジョンに何かの光景が映し出される。
場所は分からないが、朽ちた建物か廃墟の類だろう。
「実は先日、『不慮の事故』でレベル1クラスのとある女子生徒を私の部下が『連れて帰ってきてしまった』ようでして」
映し出された廃墟の隅には、誰かが映っている。
山宮学園の制服を着て、見ると両手両足を鎖で縛られているようだった。
「⋯⋯人質か?」
「人質などと物騒な言い方は止めて頂きたいですね、団長。あくまで、拾い物ですよ」
屁理屈同然の快の主張だが、明らかにこれは人質だ。
フッと薄い笑みを浮かべる快だが、ここでビジョンを見た真理子が叫んだ。
「!!! 若山さん!?」
栗色の髪に、華奢な体。
気絶しているようだが、レベル1クラスでこれに該当するのは一人しかいない。
「ああ、彼女が最近話題のレベル1の珍獣ですか。部下には適当な奴を攫ってこいと言ったんですが、思わぬアタリを引いたようですね」
テンションが上がり過ぎているのか、快は自分が口を滑らせたことにも気づいていない様子だ。いや、もう隠す必要もないと思っているのかもしれない。
「八重樫団長。残念なことに私の部下は少々女性に対する行動が荒くなってしまうことがありまして、このままではこのレベル1の女は良からぬ未来を辿ることになってしまうかもしれません」
白々しすぎる快の言葉。
彼が何を言わんとしているかは明白だった。
「どうです? この女を無事にお返しする代わりに、そちらで進行している中村健吾の生徒会入りを白紙にするというのは? 無論、こちらの『手落ち』もありますから後日生徒会には悪くない額を種石重工グループから寄付いたしますよ」
そう言うと、快はポケットから万札の束を取り出して八重樫の机に置く。
軽く見ただけで三百万円ほどはあるだろうか。
「前金程度ですが、受け取っておいてください。レベル1の役立たずでこれだけのリターンが手に入るのだから安いモノでしょう」
快の態度は、寧ろ八重樫すら見下すような様子だ。
それに対して八重樫もまた不気味なほどに冷静な様子を見せる。
「結構だ。小汚い金を必要とするほど金には困っていないのでな」
そう言って、八重樫は机の札束を放り投げる。
パサッと音を立てて、床に落ちる札束を見る快の目は冷え切っていた。
「⋯⋯大人しく貰っておいた方が良かったと思いますよ、八重樫団長。別に私はその金を『謝罪』のために出したわけではありません。あくまで事を穏便に済ませるための道具として渡したのですから」
快は一歩踏み出すと、札束を力いっぱいグシャリと踏み潰した。
「若山というレベル1に存在価値を感じていないのなら、それは私も同意します。が、私が今日ここに来た理由はただ一つ。中村健吾の生徒会入りを何が何でも阻止することです。これは種石重工のみならず、経済界の重鎮らと異能を司る名家のほぼ全員が同意している最終決定事項ですよ」
「⋯⋯だったらなんだ」
声色一つ変えず、そう言い放つ八重樫。
それを聞いた快はニヤリと笑った。
「無論、手段は選ばないということですよ。そう国が禁じている禁術『空間転移』を使い、貴方達を全員まとめて拉致したとしてもね!!!」
八重樫とアンナの目が見開かれる。
その瞬間、快は右手を大きく突き上げた。
「お前たち! 生徒会団員全員を空間転移で消し飛ばせ!!」
快の号令と共に、後ろの男たちが一斉に異能を発動した。
その刹那、生徒会室に強烈な魔力の奔流が発生する。
『空間転移!!』
バチッという音と共に、強烈な閃光が走る。
光の中に、八重樫もアンナも、桃子も修也も飲み込まれていく。
そして光が落ち着いた時、団員の机もろとも部屋から人が消え去っていた。
「愚かな⋯⋯大人しくしていればこんな目に合わずに済んだものを」
部屋に残っているのは、転移術の対象外だった雅樹と凜、それに玄聖のみだ。
「これで承認式はもう開けない。後は、家で閉じこもっている中村健吾を『始末』すれば名家の憂いは消え去ったも同然だ」
そう言って踵を返す快と、フンと鼻を鳴らしてそれに続く凛と玄聖。
だがもう一人の少年は違った。
「何をしてくれたんだ!! こんなことしてタダで済むと思っているのか!?」
雅樹だった。快に詰め寄ると、雅樹は胸倉を掴む。
「これはお爺様にも報告させてもらう!! 貴方がやったのは、完全なる犯罪だ!」
しかし快はフウとゆっくり息を吐くと、一歩下がる。
「光城様を驚かせてしまったのは、私どもの不手際の致すところで御座います。しかしご理解ください。これは私のみならず、この世の有権者が皆望んだことなのです」
それを聞いた雅樹の息が詰まる。
それは自分が『有権者』であることを理解しているからだろうか。
「光城様もいずれ理解されるはずです。これは正義のための行動なのですよ」
そう言って、雅樹にゆっくり頭を下げると快は生徒会室の扉を開ける。
すると第一校舎の最上階である生徒会室の前には、小型飛行機が留めてあった。
恐らく突然現れた男たちはその飛行機に乗って来たのだろう。
「総員撤収。ミッションコンプリートだ」
男たちと快は飛行機に乗り込む。
そして飛行機は音もなく空中を浮上しだした。
後に残されるのは立ち尽くす雅樹。
「では光城様、後日生徒会団員就任の際には祝辞を述べさせていただきます」
そう言って快は飛び去って行った。
====================
飛行機が山宮学園を飛び去ってから、一時間ほど経過した。
「快様。例のレベル1の女子生徒はどうしましょうか?」
「好きにしろ。どうなっても揉み消すのは造作でもないからな」
そう言って、水が入ったペットボトルをラッパ飲みする快。
しかし、彼には少々違和感に感じていることがあった。
「妙だな。この飛行機は本当にちゃんと飛んでいるのか?」
まるでゆっくりと降りていっているような感覚があったのだ。
するとここでコックピットから緊急の連絡が入る。
「どうやら、燃料が足りなくなってきているようです。燃料補給のため、ここは我々のアジトに向かいましょう」
部下の男の言葉に快はチッと舌打ちすると言う。
「燃料くらい最初から確認しておけ! 整備士はクビだ!」
ヒッと声を出す男が一人。
恐らく飛行機の整備士だろう。
「だそうだ。ご苦労だったな」
「で、でも燃料は満タンだったはずなんですよ!!」
「そんな訳ないだろう。こんな短時間で燃料が急に減るわけないだろうが」
必死に言い訳する整備士に部下の男が冷徹に言う。
だがしかし、ここでコックピットから張り詰めた声が聞こえて来た。
「⋯⋯!? おかしい、こんなに燃料が減るのが早いはずがない!!」
見ると燃料メータは今にもゼロになってしまいそうな勢いで減っている。
「急いで非常エンジンに切り替えろ! このままじゃ墜落するぞ!!」
「いや、間に合わない!! 積んである小型燃料で間に合わせるしか⋯⋯」
騒々しくなってきた機内。
流石の快も心中穏やかではなくなってきていた。
(何故だ⋯⋯こんなことあるはずが⋯⋯)
そう心の中で呟く快。
その時だった。
「何でこうなったか気になるって? それは、俺が水魔法で燃料を全部飛ばしたからですねえ」
バーン!!という音と共に機械室の扉が開かれる。
するとそこから三人の人影が現れた。
「修太の固有スキルマジでスゲエよ!! 空間転移を無効化するとか最強だって!」
「そ、そうかな⋯⋯エヘッ」
突然現れたのは、三人の少年と少女。新、修太、真理子だった。
新たにバンバンと背中を叩かれて照れているのは修太だ。
「自分も知らなかったよ。透過能力が異能を一時的に無効化するなんてさ」
「しかも、その力のおかげでこの飛行機にも容易に忍び込めましたね。新井さんの固有能力はもしかしたら相当凄い能力なのかもしれません」
そんなことを話す三人を驚愕の表情で見つめる快。
「お前らはレベル1の⋯⋯!!」
「おいどうだよ? レベル1に煮え湯を飲まされる気分は?」
挑発的にそう言う新。
すると快はポケットから拳銃を引き抜いた。
「
しかし、ここで真理子が異能で強烈な光を生み出した。
モーションなしで突然発動された異能に、快は虚を突かれる。
突然の光に目が
「山宮学園生なら異能で勝負しようぜ。セコイことしてんじゃねえよ」
快から拳銃を奪うと、遠くに放り投げる新。
それを聞いた快の額に血管が走る。
「調子に乗るなよ!! レベル1のクズガアアアアアアッッ!!!」
新を足で払いのけると、魔力を開放する快。
ここまで挑発されて快のプライドはもうズタズタだった。
「相手してやるよ!! 来いオラアアアアアッッ!!」
だがしかし、ここで新はニヤッと笑う。
「あーゴメンナサイ。僕らレベル1なんで、普通にやったら勝てないんですよ」
そう言う修太の手には何かが握られている。
袋のようなもので、そこには『パラシュート』と書かれていた。
「ところで知ってます? 燃料って気体になると、液体の時の何倍も強い力で爆発するんですよね。ま、俺は飛行機の燃料を全部気体に変えちゃったんですけど」
そう言う新の手には、ライターが握られている。
パラシュートの付属で付いていたキャンプ用の物だ。
「機械室は今、気化した燃料が充満してるんですよね⋯⋯」
だが彼ら三人が入って来た時に機械室の扉は開け放たれた。
それはつまり⋯⋯⋯
「俺、ちょうどデカい花火を見たいと思ってたとこなんですよねえ」
その瞬間、真理子が緊急脱出用の扉を開けた。
それを合図に一斉にパラシュートを背負う三人。
「ま、待て!!!!!」
血相を変える快。
彼の元にも、ガス臭い燃料の匂いが漂ってきていた。
だが新はライターに指を掛ける。
「やられる覚悟もないのに、人を撃とうとすんじゃねえよ!!」
新の叫びと共に、三人は一斉に空へとダイブする。
そして新はライターに火を灯すと、真っ青になった快目掛けてライターを投げた。
「たまやあああああっっ!!」
空中に木霊する新の声。
その瞬間、小型飛行機は大爆発した。
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