第21話 外の敵

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「価値の高いお宝を優先的に持って帰るのは当たり前だが、外のあいつを何とかしないと、どうにもならないな」

 夕食の席でレイガルは仲間達に語り掛けた。干し肉をお湯で戻したスープと乾燥させた果物、それに堅焼きパンという味気のない食事ではあったが、疲労した身体には本来以上に美味しく感じられる。

 レイガル達は隠し部屋を始めとする城内の中から多くの宝を見付け出していた。その総量は三人ではとてもじゃないが一度に持ち出せないほどだ。それだけに、最初に地上に持ち帰る宝を吟味するわけだが、その前に根本的な問題、城の外にいるワイバーンの脅威を解決しなければならかった。

「せめて遺跡内にも夜がくれば・・・」

 もしものことを口にしても仕方がなかったが、レイガルは続いて願望を口にする。地下遺跡にはこの第五層のように果てしない青空を造り出している区画があるが、その空が時間によって変化することはない。常に正午と思われる明るさが維持されていた。これでは闇に乗じて逃げることは不可能だった。

「それは言っても仕方ないわね・・・。それに外のワイバーンについては、あたしもずっと考えていたわ。それで・・・この城に残された資材を使ってあのワイバーンを倒す策を考えてあるのだけど、聞いて貰えるかしら?問題点や改良点があったら指摘してよね!」

 エスティは意を決したように自分の作戦を仲間達に語り始めた。


 背後に迫る風切り音が鼓膜を震わせる度にその距離が縮んでいるのをレイガルは自覚していた。後ろを振り向きたい願望と恐怖による吐き気を堪えながら、彼はただひたすら脚を前に動かすことだけに集中する。

 ワイバーンは極めて強力な怪物だ。これを倒すには、パーティー全員が与えられた役目を完璧に熟さなくてはならない。戦いを有利に運ぶ戦地、城門前まで誘き出すのが彼に与えられた最初の仕事である。本来ならこの役目は脚が早く身軽なエスティにこそ相応しい仕事と言えたが、彼女にはもっと重要な役目が与えられている。また、もう一人の仲間メルシアにも根源魔術士に相応しい役割がある。三人という少人数パーティーでは消去法からしてレイガルが囮役を引き受けるしかなかった。

「はあ・・・はあ・・・」

 昨日と同じく鎧の重さに喘ぎ声を上げるレイガルだが、城門まで辿り着きさえすれば仲間が助けてくれる。今日もそれを信じて走り続けた。

「伏せて!」

 城門まで間もなくとなった位置で警告が発せられ、レイガルは伏せると言うよりは前のめりに倒れる。続いて激しい突風が砂埃とともにその背中を過ぎ去る。ワイバーンが真上を飛び去ったのだ。肝を冷やす彼だが、直ぐに横に転がりながら上体を起こした。

 立ち上がったレイガルの視界に、土で覆ったタペストリーに隠れていたはずのエスティが、ワイバーンの後ろ脚にロープを見事に絡ませている様子が映る。これこそが投擲能力に優れた彼女に課せられた仕事だ。ロープも上から土を掛けて隠されていたが、反対側の端は城内に続いており中の柱に結び付けられている。再び飛び上がろうとするワイバーンだが、やがてロープの長さが限界となると、しなった張力により制御を失い城の壁に叩きつけられた。激しい衝突音とともに獣の悲鳴と思われる咆哮が辺りに響き渡る。

 周囲にはワイバーンの絶叫が未だ残っていたが、それを打ち消すように炸裂音が新たに響く。メルシアの攻撃魔法〝火球〟の効果だ。エスティと同じく土とタペストリーを被りながら隠れていた彼女は、城で手に入れた杖の先端でワイバーンの翼を指し示し、その被膜を紅蓮の炎で焼き焦がした。

 レイガルが誘き出したワイバーンを隠れていたエスティがロープで一時的に自由を奪い、更にメルシアがその翼にダメージを与え完全に飛行能力を奪う。これこそがエスティの考え出した対ワイバーン戦術だった。

「下がれ、メルシア!」

 作戦は大成功と言うべき結果になったが、翼を損傷したワイバーンは蜥蜴のように這いずりながら、怒りを持ってこちらに迫ってくる。さすがの〝火球〟でも一撃でワイバーンに致命傷を与えるほどの威力はない。レイガルは本来の役目、仲間を守る壁役として前方に踊り出た。

 上から迫る尾の毒針をレイガルは盾で弾いて躱す、まともに受けては質量の差で潰されてしまうはずだが、僅かに曲線を描く丸盾は攻撃を逃がしながらそれに耐える。装備を新調した成果はここでも現れていた。

 その間にもメルシアとエスティが短剣と魔法による攻撃を続ける。飛行能力を奪った後でもワイバーンは恐ろしい存在だが、レイガル達は徐々に巨大な敵を弱らせ、追い詰め、最後に彼が長剣で首を落とすことで、かつてない強敵に止めを刺した。

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