第15話 撃退
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「・・・お前、ハーフエルフのエスティだろ?山羊小屋を裏切って古井戸側に付いたんだってな!」
「それが、あんたに何か関係あるわけ?!」
前方から現れた男の一人がエスティに語り掛けるが、気安いというよりは見下した調子と顔に浮かべた薄ら笑いから彼女は一気に態度を硬化させる。その様子を後ろから見守りながら、レイガルは男達の武装を確認していた。
姿を見せているのは四人。全員が男で使い古した革鎧を着こみ、それぞれ剣や槍等で武装している。数で勝るからか、もしくは二人の美女を前にしているためか、彼らは非常に興奮しているように感じられた。エスティ、いや気概のある冒険者ならば彼らをどう対処するかは既に決まっているが、何事にも順序がある。レイガルは静かにその時を待った。
「大ありだよ。ギルドが異なる相手には遠慮する必要がないからな!俺達はこの道を安全に通れるよう、しっかり管理している。通行料を払って貰うぜ!宝の全部とは言わねえ、半分でいい、寄越せよ!・・・それに、なんなら俺達が後ろのねえちゃんも含めて可愛がってやるぜ!男一人じゃ物足りないんじゃないか?」
「怪物が怖くて中層にも潜れない連中が、良くそんなに大口を叩けるわね?!あんた達の汚く小さいアレなんて興味ないから!欲求不満が溜まっているなら小柄な娼婦を探して相手にしてもらうと良いわよ!ああ、小人族なんて、あんたに丁度良いんじゃないかしら!」
理不尽な要求を突き付ける男だが、エスティはそれがどうしたとばかりにやり返す。
「こ、このアマ!」
エスティの挑発に男は顔を真っ赤にして剣を抜いて飛び掛る。やはり彼女の啖呵の切れ味は格別だ。本人が美人だけにその破壊力は凄まじい。聞かされた男としては、自分の誇りを地に叩きつけられて更に唾棄されたようなものだろう。とは言えそれは、エスティを侮辱した当然の酬いと言えた。
待っていたとばかりにレイガルは前に飛び出し、エスティも事前に打ち合わせていたようにレイガルの影に入った。更に恫喝が失敗したことで男の仲間達が加勢しようと動き出そうとするが、同時に二人がその場に倒れる。メルシアが魔法〝眠りの霧〟を発動させたのだ。三人はこれまでの冒険で臨機応変に戦えるようになっていた。
「ぐあ!」
斬り掛かってきた男の攻撃を盾で防ぎながらレイガルは反撃を与える。どちらといえば牽制程度の一撃だったが、男は左脚にまともに剣を受けるとその場に後ろ向きに倒れる。本来なら頸部を狙って止めを刺すところだが、彼は代わりに頭を蹴り上げて昏倒させた。
最後に残った一人に向き合おうとするが、既にエスティの短剣を右肩に受けて降参の合図を送っている。幸いなことに襲撃はあっけなく幕を閉じた。
「レイガル、そっちの寝ている奴を縛り上げてくれる?あんたはそこで地面に伏せるの!さっき言ったでしょ!のろのろしてると股間にもう一本、短剣って棒を生えさせるわよ!」
脅かされた野盗まがいの冒険者は悲鳴を上げて、慌てて地面に倒れ込む。レイガルは敵を制圧しながらエスティが味方である事実を神々に感謝する。思えば彼が神に祈ったのはかなり久しぶりのことだった。
「レイガルもメルシアもよくやってくれたわ!特にメルシアの魔法は絶妙だったわね!」
「いえ、これもエスティの忠告があればこそ、常に余力を残す必要性を再認識しました」
「ええ、本当はこんな心配しないのが良いんでしょうけどね。・・・とは言え、こんな奴等の接近を直前まで気付けなかったのは私の落ち度ね・・・」
「まあ、そんなこともあるさ。まさか複数のグループが張っているとは思わなかったからな!」
自重するエスティにレイガルは労いの言葉を掛ける、どんな腕利きでも常に完璧ではいられない。それを補うのが仲間だからだ。
「そう言ってくれると、助かるかな・・・ありがとう」
その後、レイガル達は襲撃者達を数珠なりにロープで縛り上げると古井戸のギルドまで連行する。最後に余計なトラブルが発生してしまったが、彼らはパーティーとしては初となる第四層の探索を成功させた
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