ラサーーーーー!

1/13 バーイ→ラサ 


 昨日、一昨日と8時出発だったので、今日も同じと思いきや、今日は早い。トラックのクラクションで目が覚め、急いで用意をする。うん○をしながら一服いれて、トラックに乗る。今日の午後にはラサに到着するんだ、いやー、いよいよだ。いつもどおりの徐行運転でトラックは出発する。


 まだ7時であたりは真っ暗闇、すっかり早起きに慣れたな。朝の寒さは相変わらずでちじこまって座る。景色は見れないのでぼーーとする。


 夜が明けはじめるが、今日は曇っていて太陽がおがめない。チベットにも曇りがあるんだ、あたりまえだけど、晴天が続いていたのでそんな気になってしまう。山の景色に慣れ始めてしまい、よっぽどすごくなきゃ驚かなくなってしまう。だけど、チベットはよっぽどの景色がたくさんあるので問題なし。


 トラックは山間を抜けていく。道路は綺麗でトラックは快調に進んでいく。途中から雪が見え始める。ついに“雪のステージ”にきたか! しだいに道も雪でおおわれていく。外では粉雪が降っている。


 小さな町に到着してはやめの食事をとる。雪をさわると本当に粉のようで、地元の人が道路の雪をほうきでどかしているのを見ると、不思議な感じがしてしまう。


 町の出口にゲートがあり、公安が待機している。もう何度も経験したので多少のドキドキですんでいたが、今度は違う。いきなりトラックの荷物を調べ始める。「もう、なにやってんの!」 さすがにこれには驚き、トラックの中で精一杯人民ぶる。


 結局なにもない。いつもドキドキしているが、いつも何も起こらない。最近、本当に心配性だ。


 がたがたの道を走り、再びアスファルトの道へ。いつもはけつが気にならないのに、今日はやけにけつが痛くてじっとしていられない。けつの耐久力には自信があったのに。


 昼過ぎになり、青看板に、「拉薩160キロ」このちょうしでは午後には到底たどりつかなさそうだ、けどもう少しだ。すでに着いてしまったかのように錯覚してしまうが、まだまだ。公安はまだいるはずだ。


 それにしてもチベットは驚きの連続だ。景色は一瞬一瞬がすばらしいので、カメラの容量が昨日の時点でいっぱい。消す画像もなくなってきて、撮りたい景色がありすぎて悔しい思いをする。トラックからの写真は悪くないが、やっぱり外で撮ったほうがきれいだ。なんて思っていると急にバイクで来たら楽しそうに思えてくる。


 そうだ!バイクで世界を旅行しよう! 移動中のひらめきが久しぶりにとびだす。いつ以来だろう? たぶん、ペグちゃんに内緒で実家へ訪れることを考えた以来だ。“ジム・ロジャースの本”を読んだとき、バイクはちょっと無理だと思ったけど、今ならいける気がする。道なんてとてもないと思っていたチベットでさえちゃんと道がある。これはいい! バイクがあれば、バスやタクシーを使わず、自分で自由に行動できる。「交通手段はあるかな?」と、心配しなくていい。交通費もバイクしだいで安くなる。トラックみたいにゆっくりじゃなく、スピードはでて、小回りもきく。オフ車ならチベットの悪路も問題なし。熱さも寒さも肌でじかに感じられる。気に入った場所があれば停まって写真を撮れる。荷物もたくさん運べる。どこでもいけるようになる。何より、乗っていて楽しいってこと。いやー、本当にグッドアイデア!


 問題はいつバイクで旅行するかだ。日本に戻ったらペグちゃんとオーストラリアに行き、東南アジア→米大陸と行くので、そのあとかな。バイクを買わなきゃいけないし、バイクに慣れなきゃいけない。何年も運転していたので感覚は大丈夫だとしても、バイクの修理を一人でできるようにならなきゃいけない。エンジンやキャブについて深く学ばなきゃ。


 “ジム・ロジャースの本”をもう一度読めば、どうすればいいかわかるはずだ。時間が必要なので、メグちゃんとの旅行が終わったら動き出そう。働いて、お金を貯めて、バイクを買って、修理技術を覚えたら旅の開始だ。船で上海に行き、シルクロードを横断してそのままアフリカ大陸へ。すごい楽しみだ。


 トラックの中で妄想して考え続ける。


 ラサにもう少しでつくというのに、別のことで熱くなってしまい、頭を現実に戻す。景色はしだいに民家が多くなり、電信柱は立派になっていく。


 町に到着して休憩、しかし、公安カーが近くに停まっている。気になるのでチベタン達と店の中に入り、黙り続ける。


 最近、ほとんどしゃべらず受身の態度なのでいろいろ考えてしまう。昔の自分はずっとこんな感じだっただろう、いや、もっとひどかった。受身だとみんながやってくれるのですごい楽、だけど本当の自分を出していない。はっきりいって窮屈だけど、明るくふる舞う気にもなれない。しゃべらないと心まで閉じてしまう。しかし、もう少しでラサ、それまでの我慢だ。


 長めの休憩は終わり、出発する。すこし進むと小さな橋があり、大勢の人と車が停まっている。なんだろう? 近づくと公安が何人もいる。えーー! 胸のドキドキが再び。ラサまでもう少しなのに。トラックは停まり、公安は車内の様子をうかがう。目の前を公安が通り、目が合う。ゴール直前で見つかり、成都まで戻される、もしくはその場で降ろされる。いやすぎる! いつもぶりッた状態だから勘ぐりがすさまじい。まるで生きた心地がしない。


 外に出ていたチベタン小橋は戻り、トラックは出発する。横を通り過ぎると、バスのフロントガラスが割れている。あーあ、これが原因か、気分は落ち着く。終盤だからこそ緊張感が高まる。今日は今までの移動の中で一番公安に遭遇している。


 あたりは暗くなり始める。ぼーっと外を見ているとまたゲートがある。それも、公安が三人いて、目の前のトラックの荷物を朝の公安よりも派手に調べている。もう、勘弁してくれ! 今日はしつこいぐらい驚かされる。


 無事にゲートを抜け、青看板には「拉薩70キロ」、あとすこしだ。こみ上げてくる達成感と満足感をなんとか抑え、落ち着いているふりをする。


 すっかり夜になり、順調にトラックは道を進む。このちょうしなら早く着きそうだ。途中、ガソリンスタンドに寄り、すこし休憩する。横で“めがねさん”がぶつぶつ言っている。独り言はめがねさんの十八番だ。「あとちょっとだから早く行けよ!」みたいに思ってるのかも、その気持ちがすごいわかる。が、最後まで気が抜けない。あと1回はゲートがあるはずだ。トラックは出発する。


 遠くにたくさんの灯りが見え、久しぶりに電飾の光を見る気がする。大きな橋をぬけると、街の入り口の最後のゲートが見える。バーは上がっていて何事もなく通り過ぎる。やったーーーー!!!!


 ついにゲートを突破! 市街に入り、行き交うたくさんの車、人、広くて綺麗な道路が目にとびこむ。交差点のわきにトラックは停まり、“チベタン小橋”が降りろの合図をする。一緒だった3台のトラックはいつの間にちりじりになり、自分達だけ。あれ? 三日前に預けた自分の荷物はどこへ? “めがねさん”が“チベタン小橋”と話しているがわからない。“めがねさん”には珍しく、会話はヒートアップしている。 


「まさか?」と思っているところに、“げんきさん”と“ぼうずさん”がやってくる。うーん、こういうときは本当に心強い人たちだ。なにやら話していると、荷物はぶじトラックに積まれていて問題は解決する。


 ここがどこだかさっぱりわからない。宿はみんなについていくことにする。最後までお世話になりっぱなしだ。“チベタン小橋”にお金を払い、お礼を言う。寡黙な“チベタン小橋”のおっちゃんの笑顔は最高に暖かくて大きかった。本当にかっこいいおっちゃんは今回の移動で一番印象的だった。


 タクシーをつかまえて“めがねさん”とホテルへ向かう。タクシーの中が妙に落ち着き、都会へやってきた気分にひたる。いやーー、ほんとうれしい! つい、口元がにやけてしまう。いまならフルマラソンも余裕で完走できそうだ。


 ホテルに到着し、“めがねさん”と部屋をシェアする。なにかと縁があるな。部屋に重い荷物を置いた瞬間、「やったーー! ついにラサにやってきた!」


 もう、なにも心配することがない! ついにラサにやってきた! 砂ぼこりで汚れきっているリュックを開け、早速シャワーを浴びる準備をする。ジョンディエンから、五日間シャワーを浴びていないので体中が臭い。着替えを持ってシャワーを浴びに行くが、閉まっている。あとで浴びることにして外をはいかいする。


 すぐそばにネットカフェがあり、ためしに入ってみる。日本語は使えて回線も早い。カメラの容量がフルなのでUSBメモリーが使えるか試す、が反応がない。もしかして、、、 わからないし、カメラも宿に置きっぱなしなので明日やろう。メールチェックすると、ほとんどペグメールは入っていない。メールを送り、興奮をペグちゃんに伝える。伝えすぎて途中からメールが返ってこない。


 もしかしてバイク旅行のことが気にいらなかったのかも。またやってしまった! 言わなくていいことまでしゃべってしまうのは自分の悪い癖だ。そろそろホテルが閉まる、メールし足りないが外に出る。食堂でメシを食い、ホテルに戻る。


 途中で買った串の素揚げを“めがねさん”と一緒に食べてからシャワーを浴びる。髪の毛がべたべたでなかなかシャンプーがあわ立たない。


 さっぱりして部屋に戻り、ぶりってだらだらする。部屋のテレビで冬季オリンピックの昔の映像が流れていて、ぼーっと見てから眠る。


 ついにラサに辿り着いた。バンコクでアター君とひらいからインドへの陸路を聞き、チベットを目指すことになり、それからは毎日チベットのことを考えていた。たくさんの人に情報をもらい、ルートを知っては大喜びし、高山病、寒さ、公安といろいろ飛びかう噂を聞き、その度にへこんだり、悩んだりした。特にクンミンでどうしようかぐらついたけど、やめる気はしなかった。


 高山病の薬を買い、たくさんの防寒具を安く手に入れるにはどうすればいいか考え、バスのチケットを買うのに苦労したり、いろいろあった。


 だけど辿り着いた。これは自分にとって大きな自信になる。行くと決めて、あきらめずに乗り越えてきた。行こうと思えばどこにでも行けるし、何でもできる。自分でそれを証明できた。他人の言葉ほど、あてにならないのもよくわかった。行ったことのない人、経験したことのない人の言葉に耳を貸しちゃだめだ。


 丁度、旅に出て三ヶ月、くぎりにはちょうどいい。心配、不安を乗り越えて、感動、自信を得た。そのごほうびがチベットの心躍るすさまじい大自然とバイクの旅のひらめき。心の底からチベットに来て良かった。


 そんな旅ができることがなにより最高に幸せだ!

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