弱気な日

12/27  inクンミン 


 薄暗い朝方、雨が降る中、バスはクンミンに到着する。着いてからどうしようと思っていると、客引きのおばちゃんが、泊まろうとしているユースホステル、“チャーファピンカン”に案内してくれるらしい。「良かった」と思い、おばちゃんについて行き、軽ワゴンに乗り込む。


 すこしして、値がはりそうな建物の入り口に着く。予想以上に綺麗で、本当にこの建物であっているのかと疑ってしまう。中に入り、いままでの宿とは比べ物にならない立派なレセプションでたずねると、ドミが30元。こんな良いところで30元か。


 なんとかチェックインを済ませ、部屋に案内してもらうと外の別館へつれてかれる。そりゃそうだ、こんな綺麗な建物には泊まらせてくれない。それでも充分に綺麗な別館の部屋に入ると、二段ベッドが四つ、薄暗く、泊まっている人はみんな眠っている。たまたま目を覚ました日本人の人とすこし話して、シャワーを浴びる。


 いやー、最高! 水の勢いはよく、温度は熱いぐらい。たまっていた洗濯物をいっしょに洗うが、空腹のせいか、しぼる力がでない。


 洗濯を終えて部屋に戻り、メシを食べに行くことにする。


 本館の1階で人々は朝食を食べていて、面倒くさいのでそこで食べることにする。15元と少し高いがしかたがない。食事のしくみがわからないので、従業員にたずねると、なんとビュッフェらしい! わくわくしながら料理が置いてある奥に行くと、うおーーー! たくさんの食べ物が!


 パンにご飯、何でもあり、まるで夢のような光景だ。「これで15元でいいの?」腹をすかせておいてよかった。欲望のまま料理をとり、ナスの煮込みを一口いれる。うますぎる! なんてうまい食べ物ばかりなんだ。何度もおかわりして大満足。おいしすぎる。


 部屋に戻ると日本人二人が会話をしている。盗み聞きしながら荷物を整理していると、二人の会話は旅慣れしてるようす。チベットについて聞いてみると、えっ! ネガティブな発言がすごい! 「行くのはやめたほうがいいよ」と言われる。


 話を聞いていたら急に怖気ついてしまう。寒さがすさまじいらしく、凍傷は覚悟したほうがいいとのこと。闇バスの途中で公安に見つかれば、成都まで戻らされるか、最悪その場で降ろされる。そうしたら、死!怖い!


 布団にくるまりながらいろいろと心配してしまう。「やっぱり行くのはやめようかな」と思ってしまう。気力がなくなり、布団で寝る。頭の中は恐怖心で一杯だ。


 気分をとりなおしてネットカフェを探しに行くが、看板が漢字ではみつけられない。小雨が降っていて、頭が痛い。宿のネットカフェを使うことにするが、日本語が使えない。「日本語に設定して」と言う気力もでず、そのまま使う。


 部屋に戻り日記を書く。やっぱり気分がすぐれない。再び寝る。


 夕方までだらだらして、中国に留学していたと言う、ネガティブ発言をする日本人と話す。寝たせいか気分はすこし良くなり、チベットへの不安もなくなる。こんなことであきらめるか! せっかくクンミンにきたことだし、腹がへってきたので外に出かける。


 雨は止んでいて、夕日がとても綺麗だ。クンミンは都会でいい街かもしれない。太陽に浴びると元気があふれ出し、散歩して服をみたりして店をまわる。ガイドブックを片手に中国語で値段を聞くと、思ったよりも通じる。中国語が通じると楽しくなり、歩きながら中国語をぶつぶつと一人でしゃべる。屋台で適当に頼むとドライカレーみたいなのが出てくる。満腹になったところで宿に戻る。


 すっかり体調は良くなり、部屋に戻ると初めてみる日本人二人がいてすこし話す。一人はウルムチにいたらしく、気温はなんとマイナス20度と極寒だったらしい。3日間で100メートルぐらいしか動かなかったと聞き、安心する。


 マイナス20度から生きて帰ってくる人がいるなら大丈夫だ。今のラサは寒くてもマイナス10度ぐらいと、さほど寒くないらしい。二人は食事に行くので、本を読むことにする。


 誰も帰ってこないので一人だ。ドミトリーは取り残された気分になる。今までは一人で余裕だったのに。最近は弱くなっている。


 ウルムチの人とベトナムから来た人が帰ってきて、ビールを飲み始めたので参加する。唐辛子を靴下の中に入れると暖かいと教えてもらう。他に、新聞紙を体に巻きつけるのと、タイツをはく。いい事を聞いたぞ。


 中国留学の人も戻り、四人で飲みながら話す。しかし、さほど元気がでてこない。途中で眠くなり、先に眠ることにする。


 チベットへの不安はすさまじい。「寒さは大丈夫か? 公安に見つからずにいけるのか? ラサについてからカトマンズに抜けられるのか?」考えたらきりがない。ただ、やることは恐れずに前へ進むだけ。なるようになるだけだ。覚悟は充分していたつもりだったけど、全然足りなかったみたいだ。心配してもしかたないので前向きに楽しもう。

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