落葉性のアイ

藤和

第1話

 リビングのテーブルの上に置いてあるフルーツバスケットはいつのまにか空になっていた。昨日の夜はイチジクが3個あったはずだ。別に食べたかったわけではないが、誰が食べたのか気になったので姉に聞くことにした。


 姉はベランダで煙草吸っていた。ベランダに出ると心地よい風と満天の星空と煙草の匂いが俺を包み込む。


「姉さん、リビングに置いてあったイチジクは誰の胃袋に?」


「さあ、あんまり覚えてないの。食べたいなら明日買ってくるわ」


 姉はそう言って煙草の煙で顔を隠した。おそらく新しい彼氏でも連れてきたのだろう。俺はイチジクが食べたかったわけではないと姉に言ってベランダを後にした。


 リビングに戻ると時計の針は0時を指していた。秒針の音だけが聞こえるリビングでコーヒーを飲みながら、俺は一年前のことを思い出そうとした。




 夏休みに入って1週間経ったが今日もやることがない。でもそれは今に始まった話じゃない。夏休みに入る前から、高校に入学する前から、何をしても虚しさが這い寄ってきた。趣味も恋愛も、本気で好きになることなんてなかった。そんなことを考えるとさらに虚しくなるので、気分を紛らわせるために朝からベットの上で音楽を聴くことにした。


 好きなバンドのアルバムを聴き終えた時、腹が減っていることに気がつき何か食べようと思いリビングへ向かった。テーブルのバスケットにはイチジクが1つだけ入っている。それを軽く洗い、かじりながらテレビを見ていると、後からリビングに来た姉がそれを見て悲鳴をあげる。どうやら姉はイチジクを食べたかったらしい。


「ごめん、買ってこようか?」


 そう言うと姉の表情は少しだけ明るくなった。


「マジで? このイチジクはスーパーじゃなくてタカノ農園ってところで買ったものってママが言ってたけど大丈夫?」


 タカノ農園。家から2kmくらい離れたところにある小さな農園だ。どうやら母はそこで買ってきたらしい。


 わかった、任せといてよ。そう言って俺はクロスバイクに乗ってタカノ農園に向かうことにした。久しぶりに外に出た気がする。今日は雲ひとつない快晴だ。青空だけが見たいのは我儘ですかと口ずさみながら自転車を漕いでいるとタカノ農園と書かれた看板が見えてきた。小さいころに両親と一緒に来て、そこで出会った知らない子と一緒に農園の中を探検していた記憶がある。けれど随分と昔の話なので殆ど憶えていない。


 タカノ農園に入ると、顔はよく見えなかったが黒髪ショートボブの女性が店番をしていることに気がついた。女性はこちらに気付かずに本を読んでいるみたいだ。よほど面白いのか、俺が近づいても気付かない。


「すみません。イチジク買いたいんですけど」


 驚かすつもりはなかったが彼女は少し飛び跳ねてこちらを見た。さっきまでは見えなかったが、彼女の透き通るような青い色の瞳はどこか夏の空を連想させるものだった。















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