第79話 そんなこと、解ってるよ。 2
迷宮は、本当に不思議な場所だ。
マスクを着けていなければ、数時間と待たずに臓器がダメになってしまうような場所なのに、まるでわたしたちが滞在することを歓迎しているような造りに見えてしまう。
ここだってそうだ。安全地帯と呼ばれているこの場所は、人が活動できる限界地の場所にふと現れる。ここには瘴気が存在しない。そのおかげで、魔獣たちは寄り付かないしわたしたちはマスクなしでも過ごすことができる。
洞窟特有の冷えた空気が、肺の中を満たす。足元も少しだけ湿っていて、冷たい空気が足から熱を奪う。左を見てみれば、そこには大きな水だまりがある。確か、地底湖とかいう名前だったような気がする。
立ち止まる。ここには、視界確保用の松明はない。ただ、安全地帯の範囲を示す境界線が地面に掘られているだけだ。それでも周りが見えるのは、地底湖の天井にいる彼らのおかげだ。
計測器に目を落とす。指している瘴気の濃度は、ゼロに限りなく近い。それを確認して、バルマスクと言われているマスクを外す。
「わぁぁ――……」
思わず、そんな声が漏れ出る。
洞窟の天井いっぱいに広がっているのは、満天の星空。青を基調とした鉱物が、まるで本物の星のように発行している。
時に瞬き、時に光を弱め、あらゆる光を取り込んで光り続ける。彼らの姿は凪の地底湖にも映り込み、まるで水の下には鏡面世界があるような気さえ起ってくる。あまりのきれいさに、しばらくして見とれていたことに気が付く。
やっぱり、迷宮は不思議だ。こんなところにこんな光景を用意してくれているなんて、わたしたち人に見てほしいとでも言わんばかりに。
まるで正反対だ。
いまの私の心とは……。
「――――?」
そんな星空に、もう一人。
この場所に居座る少年がいた。
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