第44話 とある技師の話 4
燃焼石を引き出すと、室内が温かい光に満たされる。設置された機材が光を反射し、金属光沢を魅せる鋭いながらも柔らかな光が、その部屋の正体をさらけ出す。それを見て、樹が目を丸くしている。
「これって……工房」
「俺の修理工房だ。製造はまだ任されちゃいないが、修理と特殊加工は任されてる」
「特殊加工?」
「ほら、見せただろ? こいつだよこいつ」
ポケットから金属筒を取り出す。ああなるほどと、樹が頷く。それをしまってから、工房の中のものを説明する。酒が入っているため機械を動かすことはできないが、説明することくらいは十分できる。
「ここにも、機械ってあったんですね」
「複雑なもんは無いがな。こいつなんかは、表にあった水車を動力にして動いてる」
この世界には、電気はない。よって大規模な工場なんかは作れず、当然電子機器も精密機械も無い。ここにあるものが限度だ。
「作業機械はこれくらいだけどよ、俺なら、日本の部品と遜色ないもんが作れる」
それでも、自分になら扱える。自動機械を使わなくとも、自動機械と遜色ない物を手作業で作ることができる。なぜなら、実家での自分の担当分野がそこだったから。
その言葉に、樹が首をかしげる。どういうことなのだと、説明を求める。
「……だからよ、樹」
まだ、向こうの製品を思うようには再現できない。だが、こっちの装備品ならいくらでも直せる。知っている知識を使えば改良さえもできる。
俺は戦えないから、そんな力も、勇気すらないから。せめてこれくらいはやらせてほしい。
「俺を、専属技師にしてくれねぇか?」
「……後藤さん」
「もう嫌なんだよ。知ってるやつらが死んでくのは、もうまっぴらごめんなんだ。俺は戦う才能なんかなかった。俺が戦えんのは
今でも頻繁に夢を見る。あのときの光景を夢に見る。目の前で、横たわるすぐ近くで、命の灯が消えていく。俺が助かったのは、単なる偶然だろう。
あの時の戻っても、俺は何もできないだろう。ゲームじゃないんだ、この世界で戦える才能が俺にはなかった。仕方ないと思っている。悲しいとは思っている。しかし後悔はしていない。なぜなら、あの時に戻っても何もできないことは解っているから。
だが、いまは別だ。
知り合いが目の前にいる。それも、命を賭けて相手を狩る戦闘職だ。死ぬ可能性は俺よりもよっぽど高いに決まっている。装備品の不具合が起こることだって十分にある。それだけは、絶対に見過ごすわけにはいかない。
技師という分野なら、俺は樹たちよりもはるかに戦える。どんな不調だろうが、たちどころに見つけることができる。生存率を、上げることができる。
だとしたら、俺が命綱を結べるというのなら、
「だから樹。俺に、命綱つけさせてくれ」
俺がやらないわけにはいかないではないか。
◆◇ ◆◇ ◆◇
細かいことを書くのは無粋だろう。あの時のことを手短に書く。
『樹が笑って頭を下げた』それが全てだ。
◆◇ ◆◇ ◆◇
――二週間後・リンクスの鍛冶屋整備室にて――
「よし、装備品のメンテも完了してる。頼まれた仕事はこれで全部だ。お前ら――」
「思いっ切りかましてこい!」
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