第5話 幕間 アルスト魔法大学 世界歴史書より抜粋

 聖歴七百五年、それまでこの世界はひとつの巨大な国家によって統治されていた。その国は《ラステア帝国》とよばれ、今日において世界に散らばる戦略級魔法具を製造する技術を持った国家であった。


 しかし、五百年という長い間帝国が反映した当時の文献は歴史書すらもほとんど残されておらず、魔法具の技術も大半が失われている。現存する歴史書を照らし合わせてみると矛盾の生じる史実がいくつも発見されており、意図的に改ざんされているのではないかという学説が、学会で最も有力な見解である。



                中略



 《独立戦争》  

 整合性がとれた文献が現れるのは、今から二百五十年前にさかのぼる。その中でも、ラステア帝国が分断され、七百八十二年から七百八十九年—アルトレイラル王国が誕生する一年前—の大戦は《独立戦争》と呼ばれ、最も記録が少ない期間である。現存する資料から、その期間において禁術と呼ばれる魔法や魔術が多数使われたことが分かっている。記録が少ないのは、その技術を抹消するためではないかというのが有力な説となっている。


 八年にわたる独立戦争の中で、もっとも悪質かつ狂気的とうたわれる禁術は、《四方魔法陣》と呼ばれた固有結界による大量虐殺魔術である。使われたのは、建国間際の七百八十九年。終戦となる三か月前である。


 それは、大地を這う霊脈上四か所に《くさび》を打ち込み、霊脈をせき止めることで起こる魔粒子の暴走を利用した大量殺傷を目的とするもの。体内の魔粒子を過活動状態とし、生物だけを狂い死にさせるものであった。


 しかし、謎も多く残る。くさびを破壊しさえすれば術は起動しなくなるという単純な設計であるにもかかわらず、その解除には大量の犠牲が伴っている点。また起動した地域が、当時戦略的価値がなにも見いだせなかった場所であるということである。


 学会では、《くさび》が魔法具ではなく生きた生物だったのではないか、という学説も持ち上がっているが、その真偽は現在も不明である。





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