03. 異世界電車は寄席の席

 m(_ _)m



 エ、おはこび、誠にありがとうございます。



 汎銀河から、こうしてはるばる地球にやって来まして、沢山のことを勉強させていただきますってーと、ポンコツなアタシながらも、少しは見えてくるものが、あるわけでして。


 なんと言っても、宇宙は広い。


 いろんな生き物が居ます。


 姿形から、足の数から、大きさから、寿命から。

 そんな特性……ってぇか、が、てんでバラバラだ。


 かというと、実体を持たない『思念体』なんてのも、宇宙にはおりまして。


 それこそ、3Dプリンターでも造れないような、精神だけの存在ですな。


 じゃあね? そんな外見を持たない思念体がサ? 個性を主張しようと思ったら、さて、どうすると思います? 


 もうネ。こっちからアピールするしかないわけです。

 誰かの脳内に直接ささやいたり。《ゴーストライター》として、創作物を残したりね。



 地球じゃ、『火の無い所に煙は立たない』と、申しますな。


 煙どころか実体のない、アタシみたいな思念体は、それこそね? 火でもつけてアピールしないと、見つけてもらえなかったり。


 ……いや、実際に火はつけませんよ? お縄はごめんだ。


 書いた人のサ? 『魂』ってんですか? 『精神』ってんですか? 平たく言えば個性ってアレが、ゴーストライトした創作物には宿って。


 受け取る側にも、その個性が、見えたり見えなかったりする。

「あ、こりゃ、あいつが魂入れて書いてるナ?」みたいな感じのね。


 そうかと思うとね? 個性を、全然違う所から見つけ出したり。


 するってぇと……著作権侵害は、『魂』を誰かにパクられた……みたいなもんですわな。


 でもサ? 


 AIが描いた絵だとかね?

 体はおっさん、心は少女な、バーチャルアースホーサーバーチューバーの異世界版とかね?


 『個性が大事だいじ』と言うけれど、その個性ってそもそも、どんなものなんだが、わかんなくなってきちまう昨今だ。地球でもそうでしょ? ねェ?



 さて。



 見事勝訴に終わったウォザキが、うまく収まったかってーと……どっこい。いろいろあったんですな。



 炎上したんですよ。SNSでネ?

 当然、ニュースにもなった。ぜんぜんスマートじゃ無いねェ。


 いろんな文句が、SNS上を飛び交った。

 

 例えばね?


「ウォザキの反抗期サカラッティングは、あのマンガと明らかに同じ。断罪されるべき」だとか。


「サカラッティングのルールが、カァリングと大して変わらないんだから、その時点でパクリだろ?」たとか。


「人が描いたマンガと似た事をった時点でパクリだろ?」だとか。


 そんなのが、もう、雨後のたけのこみたいに、たっくさん出た。


 そしたらサ?

 法律をやってる、どこぞのお偉いさんが、激怒しちまった。


 そのお偉いさん、SNSで、こう言っちゃったんですナ。


「お前らは法律を知らないから勝手な事を言う。ありふれた部分は著作物性がないから引いて考えるべきだし、表現ではなくアイデアの類似は侵害じゃないし、依拠性がなければ侵害じゃない。無責任に騒ぎ立てるな素人が」


 ってな、具合に。


 あー、やっちまったねぇ……。

 でも飲みながら、落ち着いた方が良かったかもしれないねェ。


 ま……法律を知ってる人にとっちゃ、ソレが正論な話かも、知れねぇよ?


 でも……ねぇ?

 法律的に正しい正しくない、以前にサ?


 から、炎上してるワケで。


 ン”ー、案の定。


「何を上から目線が! 偉そうに」

 だとか。


「明らかにパクリだろ? 侵害に出来ない裁判がおかしいんだよwww」

 だとか。


「こいつ、何様なの?」

 だとかね。


 そういう反発が、SNSで次々と来ちまって、どんどんと燃えた。


 そりゃアそうだよー!

 正論とか、法律とかの話の前にサ?

 感覚的に、似てる似てないでパクリを判断すれば良いって、思ってる人がいっぱい居るんだから。


 正体不明の、ナゾの偉いさんに上からものを言われて、気持ちよくなるわけがない。マゾでも無い限り。


 さぁどんどん燃え広がる燃え広がる。


 そいで慌てたのは、ウォザキの決勝戦のライバルだった、にんじんみたいな、キャロテーな。


 だってヨ? キャロテーは結局、サカラッティングの全国大会で優勝した。

 『反抗のカリスマ』の二つ名と、『優勝』って肩書きで、人気爆発して、八本足の可愛い女の子を、とっかえひっかえ……くんずほぐれつ、みたいなネ?

 とっくに目的果たしたんだから、例の裁判については、キャロテーは負けても問題なかったんだヨ。


 ところが、炎上の火に巻き込まれちまった。


 訴えを起こしたキャロテーの父親もさ? 

 メールボックスが、こう、風船みたいに、パンパンに膨れ上がって。

「ウォザキの奴、他にもこんな悪さしてます!」だとか、通報がたっくさんやって来た。


 こんな大量の善意の塊、とっても処理しきれない。

 困ったその父親が、ネット民をなだめに入ったんですな。


「著作権は、『親告罪』って言って、親っていうか、権利者が訴えるものだから。権利者じゃ無いキミたちは、大騒ぎしないでくれ」

 みたいなことを、SNSでつぶやいた。


 返す刀でネット民から、SNSで「だったら何で訴えた?」とやられて、どうしようもなくなった。


 一方、ウォザキの所もさ。

 文句が、母親の所に行ったんだな。


「侵害者の親が!」

「教育がなってない!」

 なんて義憤が、大量に。


 ウォザキとしてもネ?

 これまでさんざん反抗サカラッティングしてきたけれど、さすがに母親に、悪いって思っちまう。


 でも、「母親に謝ったら死ぬ病」みたいなのが、発病しちまってるもんだから、おいそれとは謝れない。


 苦悩したウォザキはサ?

 とにかく母親から離れよう、ってんで、実家を出て、大学の友達のアパートに、転がり込んだんだな。


 代理人だったフッキャン先生は、ウォザキを今度こそ見つけ出し、親身にサポートをした。


「ウォザキさん? 炎上は、初期消火が肝心なんです。ここまで燃え広がると、謝っても無駄です。火が消えるまで待つのがセオリーです」だとか。


「炎上も、SNSと通信技術からの産物だから、それに応じた法制度に変えていかないといけないと思ってます」だとかね? いろいろ言った。


 そうこうしてると、炎上は、さらに燃え広がった。


 「母親に反抗するとは何事だ!」って文句が、大量に沸いて。

 いや、『サカラッティング』って、そういうスポーツなんじゃなかったっけ?


 著作権侵害も、パクリも、前線関係ないとこまで飛び火した。

 もうネ? 誰がなぜ、何に対して怒ってんのか、皆目わからない、パニック状態だ。


 ――そんな時にだよ?


 動画サイトでアースホーサーをやってる、「」っていう、可愛い女の子が、投稿動画で、こんなことを言い出した。


「そんな騒ぎより、アタシの動画を見て! 『歌ってみた動画』の方が、よっぽどいやされるよ!」

 

 ……。


 ……。


 沈静化したねぇ。炎上。 


 あっちこっちに群生するカリフラワーみたいな、アフロヘアーをサ? ふとん圧縮袋にガッと突っ込んで、こう、ギューッって圧縮して、それを反物質にぶつけて対消滅ついしょうめつさせたみたいに、沈静化した。


 いや、あっちもこっちも、関係者一同は、みんなびーーーーっくりしたんだけれど、蓋を開けてみて、わかったのがネ?


 炎上の盛り上げ役。

 わずか3人しか、居なかったんだとさ。


 それがネットの拡散機能で、膨らんで膨らんで、大きな炎上騒ぎになってただけだった。


 その張本人の3人が。

 たまたま、動画サイトで活躍する「カリノタイ」の、大ファンだったらしくてサ?


 いや……。

 

 その……。


 なんだ……。




 『可愛いは正義』ってのは、この世の真理ですなァ。

 有名な哲学者デカルトの、『我思う、故に我有り』以上のサ?




 それから、SNSでは反省会が開かれた。


 個性が大事だいじで、それがパクられると、著作権侵害だと大騒ぎになる。


 けれどそもそも、その「個性」って、一体なんだろ?

 

 本人ウォザキが思う個性? ライバルキャロテーから見た個性?

 先生フッキャンが見た個性? 裁判官が見た個性? ネット民が見た個性?


 心の内から、体の外までの、どこからどこまでが個性?

 モノの個性は? サルの個性は? AIの個性は?

 どこまでが、パクッちゃいけない、個性?


 うーん……。

 

 うーん……。


 の中で、アナタの頭に直接語りかけてる、ポンコツなアタシにゃ。ごめんね、正直、わからない。


 もう、『思う、故にあり』なんだか、さっぱりだ。

 

 さて……。


 尺をオーバーしちまいまして、すみません。電車で立ったままで居るのは、足がつらいでしょ? 押してあげましょうかねェ。エッ!? 座ってる?



 スポーツやら、裁判やら、炎上騒ぎやら。

 そんな濃ゆーい経験をして、ウォザキ青年は成長した。もう、大学4年だ。


 たとえ子供っぽくて未熟でもネ?

 思春期に、後から考えると恥ずかしいアンナ行動とか、ソンナ行動をしていても。


 一生懸命生きてるとサ?

 どこかで誰かが、見ていてくれるもんでして。


 ウォザキは、仕事を紹介してもらったんですヨ。

『いろんな経験をして、学んだ事を、誰かに伝える』ってェ仕事だ。


 ウォザキはたくさん反抗して、たくさん失敗したから、他の人が持ってない宝を持ってるんだとさ。


 とあるの、が、彼を見初めたらしくてね。


「あたしの親戚、けっこう良い会社を経営してるから、春からそっちに来なさいな」とまぁ、そうなった。


 いや……喜んだねぇ。ウォザキは。

 なにが嬉しいって、自分個性を見てくれる人が、社会に居た……ってところにナ。

 

 嬉しくてつい、プリンをたくさん買って、たくさん食べた。


 その女社長さんと会った帰りにネ?

 ウォザキはデパートで、菓子折りを買った。

 友人宅の居候から、久しぶりに、自宅へと戻ったんだな。


 居間に正座して……なんてガラでもなかったもんだから、玄関先で「ただいまぁ」。


 奥から出てきたエプロン姿に八本足の母親に、唐突にウォザキは、こう言った。


 母さん、いままで反抗してゴメンな?

 俺さ、今日、就職が決まったんだよ。

 長い間、母さんに心配をかけて悪かったけれど、俺もこれで、一人前の男だ。


 そうしたら。

 エプロン姿の母親は、目ぇにうっすら涙を溜めて、「そう、そう……。おめでとう」と泣くんだよ。


 ウォザキも、つられてウルッと来ながらも、「ありがとう」って素直に答えた。


 そしたらその母親。

 涙をキッっと抑えてサ。

 

 八本の足のうちの、何本かを息子の肩にポーンと置いて、こう言った。


「これまでアンタ、あたしの財布から、お金ズイブンパクったでしょう? そろそろ返してちょうだいな? 一人前になったなら」




m(_ _)m

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